今の日本の物価上昇は「悪いインフレ」
数字だけ見ると、長くデフレに苦しんできた日本経済が、日銀のインフレ目標である2%に近づいて良かったと思うかもしれないが、賃金が上がらないのに、食品や光熱費など生活必需品の値段が上がるのは「悪いインフレ」である。生活実感として苦しくて当然なのだ。
事実、オイルショック後のほうが圧倒的に物価の上昇率は高かった。1974年には消費者物価指数が23%も上昇している。「狂乱物価」と呼ばれ、経済は大混乱を来した。
ただ、当時は物価の上昇率以上に賃金が上がっていた。同年の春季賃上げ率はなんと32.9%。急激な賃金上昇に、日経連が賃上げガイドラインを設定し、1975年以降の賃金上昇の抑制を図ったほどである。
ゆえにトイレットペーパーに象徴されるような物不足は起きたが、物価上昇による生活への負担感は今の日本より少なかったと言われる。
同様に、海外では消費者物価の上昇率は日本よりずっと高いのだが、その分、賃金もきちんと上がっている。一方で、日本の平均賃金はこの20年間ほぼ横ばい。バブル崩壊直後の1992年と比較すると、むしろ年収で40万円近くも下がっている。
G7諸国ではイタリアに次いで低く、いまやアメリカの半分強、韓国の約9割である。OECD加盟諸国でも、下から数えたほうが早い。
