インフレが大問題
3月20日公開「第2次冷戦はロシア危機発『バイデンのスタグフレーション』との闘い」で述べた、「スタグフレーションの本場」で活躍しているのが、ウォーレン・バフェットである。
「株式市場が1年間閉鎖されても心配ない企業だけに投資する」と明言するバフェットだから、これからやってくるであろう「金融危機」や「景気の落ち込み」に対する備えは万全であるはずだ。短期の株価はともかく、長期的な企業価値に関してはびくともしないのが「バフェット銘柄」の特徴である。
それでは、スタグフレーションのもう一つの側面「インフレ」についてはどうであろうか。「金融危機」や「景気の落ち込み」と違って、こちらは基本的に長期的現象だ。最近のデフレの期間があまりにも長かったので忘れがちだが、資本主義経済というものは歴史的に見ればインフレが「常態」である。
最近のデフレ基調の中での言及はほとんどなかったが、以前は「バフェットからの手紙」でも「投資におけるインフレ対策の重要性」に関するコメントがしばしば見られた。
極端な話、「そもそも投資の一番大事な目的はインフレヘッジをすること」にあるとさえ言えるのだ。それも当然で、例えば10%のインフレで何も考えずに現金で保有していれば、現金(資産)の価値は概ね10%減少するのである。しかも、インフレは長期的現象だから、この現金(資産)価値の目減りはいつまでも続く。
これは由々しき事態であり、このインフレでの目減り分を補う重要性をバフェットは口を酸っぱくして述べてきたのである。

もちろん、一方で「現金準備」の重要性も強調している。これは、5月16日公開「バフェット流投資術とは『原理原則』と『現実』の歪みを見つけること」2ページ目「安全余裕率とは」にも関連しているが、「いつどこで何が起こるのかはわからないが、『いつかどこかで災害が起こる』ことはわかる」というバフェットの考えに基づく。要するに「備えあれば憂いなし」であるということだ。
「金融危機」や「景気の落ち込み」のような「株式購入のビッグチャンス」はいつやってくるからわからないから、「常に十分な現金を準備する」のがバフェット流である。
しかし、この「万が一の備え」と「インフレ対策」は相反する。万が一の備えの現金(預金・短期債券も含む)は、インフレに弱いからだ。
まさに、バフェットが直面しているのは「スタグフレーションのジレンマ」である。
昨年あたりまでのバフェットは「膨れ上がった(まさかの備えの)現金」の問題に悩んでいたが、最近、ゲーム会社アクティビジョン・ブリザードや石油・ガス大手オキシデンタル・ペトロリアムへの積極的な投資が明らかになった。
バフェットが「金融危機」や「景気の落ち込み」などのリスクを認識していないはずがないが、そのような「一時的」問題を乗り越えていくことができる新たな投資先を見出したことは重要だ。インフレ対策だけではない。そもそも企業に投資して運用しなければ資産は増えないということを忘れてはいけない。
そこで、バフェットがこれから「スタグフレーション」が迫りくる中でどのような企業に投資をするのであろうかについて考えてみたい。