昔は、赤ちゃんは死に近い存在だった

NICU(新生児特定集中治療室)では色んな赤ちゃんが入院してきます。

小さく産まれてもモリモリ成長し退院する赤ちゃん。
在宅人工呼吸器や栄養を入れる管など色んなサポートを得ながら退院する赤ちゃん。
生まれつきの病気を抱えながら多くの手術を経験して退院する赤ちゃん。
多くは退院し家に帰っていきますが、中にはNICUで息を引き取る赤ちゃんもいます。

(C)鈴ノ木ユウ/講談社『コウノドリ』第7巻. NICUより
 

医師は患者さんを看取るとき精神的ダメージを負うと思いますが、自分も初めて赤ちゃんを看取った時は例外ではありませんでした。明らかに未熟性が高い在胎週数で生まれた早産児でしたが、生まれて日にちが経過してから発症する感染症、「新生児遅発型敗血症」で小さく貴重な命を失いました。

少し話はずれますが、感染症は未熟な赤ちゃんの命を突然奪う恐ろしい合併症です。
原因菌によっては、朝バイタルサインを保っていた赤ちゃんが夕方には亡くなるという急激な経過を取る場合もあります。御家族にとってはもちろん医療者にとってもショッキングな合併症です。新生児科医などNICUで働くスタッフが必要以上に手を洗うなど感染対策に気を使うのは、こういう理由があるのです。

周産期医療が発展した現代社会では、赤ちゃんは死なないもの、つまり「死」とはかけ離れた存在であると認識されています。しかし、新生児死亡率の高かった昔は、赤ちゃんは死に近い存在でした。聖書(詩篇23篇第4節)では「新生児期は死の闇の谷:The valley of shadow on death」と表現される事からもわかります(※1)

また世界に目を向けると、新生児死亡は5歳未満の子供の死亡の43%を占めるという国際的なデータもあります(※2)。世界では赤ちゃんの「死」は未だ身近にあるものです。一方、日本の新生児死亡率は世界も最も低い(早期新生児死亡率は1000出生数に対して0.7人 ※3)ですが、日本でも赤ちゃんは亡くなっているのです。