周産期医療の発展で変化する倫理

周産期医療の発展は目まぐるしいです。特に胎児エコーや胎児MRIなど画像検査の発展により、お母さんのお腹にいる間におおよその診断をつける「胎児診断」が発展しています。

生まれつきの心臓の病気である重症の先天性心疾患は、生まれてから緊急性が高いため胎児診断が生まれてからの治療の肝と言われます。日本でも地域差はありますが、重症心疾患の胎児診断例は確実に増えています(※4)。

引用:川滝元良.先天性心疾患の胎児診断. 麻酔 2017; 66増刊: S125-137(※4)
 

そんな胎児診断が発達すれば、当然お母さんのお腹にいる間に色んな病気が診断できたり、疑いをかけたりできます。赤ちゃんの病気がある程度わかるようになったのです。

一方で新生児医療も日進月歩です。人工呼吸器でも今までは吸う息や吐く息を引き金にして呼吸を管理していたのが、近年は横隔膜の電気を感知して呼吸管理する方法の呼吸器が台頭してきました。家に持ち帰る在宅酸素や在宅人工呼吸器も小型化が進み多機能化しています。中でもコロナ禍でも有名になった、心臓と肺の働きを助けるECMO(体外式膜型人工肺)は赤ちゃんでも施設によっては使うことができます。

施行できる施設も限られる中、また施設によっても基準は大きく異なりますが、小さな体でのECMOは当然負担が大きくどうしても期間限定となってしまいます。

そこで例えば生まれつき肺が無い、あるいは心臓がない赤ちゃんが生まれた後、このECMOは適応があるでしょうか。肺や心臓が生まれつき無いのなら、ECMOは赤ちゃんへの多大なる苦痛を与えてしまうだけの治療になり、その適応は考えにくいでしょう。お母さんのお腹の中では赤ちゃんは羊水に満たされてますが、その羊水は肺を育てる働きがあります。では、その羊水が少ない状態で肺の形成が未熟だった場合はどうでしょう。

肺は生まれてから育つかもしれません。それとも肺が思ったより小さく、蘇生にそもそも反応しないかもしれません。侵襲の大きなECMO自体が赤ちゃんにとってやりすぎの医療になっていないかどうか、常に議論をする必要があります。

重篤な疾患のある胎児症例の場合は、出生前にまずは御両親へ十分な情報提供を行いつつお話をし、両親の意向や気持ちを確認します。また多くの診療科や職種が集まってカンファレンスを行い、現時点での情報から十分な検討を何度も重ねます。このように現場では、できる治療の選択肢が多い分だけ倫理面とのバランスを取りながら方針を選択をしていく必要があるのです。