話題の書『朝日新聞政治部』先行公開第4回〜内閣官房長官の絶大な権力

朝日新聞政治部(4)

「鮫島が暴露本を出版するらしい」「俺のことも書いてあるのか?」――いま朝日新聞社内各所で、こんな会話が交わされているという。元政治部記者の鮫島浩氏が上梓する『朝日新聞政治部』(5月27日発売、現在予約受付中)​は、登場する朝日新聞幹部は全員実名、衝撃の内部告発ノンフィクションだ。
戦後、日本の左派世論をリードし続けてきた、朝日新聞政治部。そこに身を置いた鮫島氏が明かす政治取材の裏側も興味深いが、本書がもっとも衝撃的なのは、2014年に朝日新聞を揺るがした「吉田調書事件」の内幕をすべて暴露していることだ。

7日連続先行公開の第4回は、内閣官房長官が持つ権力の正体を暴き、それに迎合する番記者たちの姿を浮き彫りにする。

官房長官には総理より多くの情報が集まる

小泉総理は郵政選挙に圧勝した1年後の2006年秋、安倍晋三氏を後継指名して勇退した。安倍総理は塩崎恭久官房長官ら親密な仲間で主要ポストを固め「お友達内閣」と呼ばれたが、スキャンダルが相次いで失速。2007年夏の参院選で惨敗し、過半数を失う。衆参で与野党が逆転する「ねじれ国会」に突入した。

安倍総理は政権を立て直すため、官房長官にベテランの与謝野馨氏を起用した。政治部に復帰した私は官邸クラブに配属され、与謝野氏の担当を命じられた。官房長官番だ。

与謝野馨氏(左)と安倍晋三氏 Photo by GettyImages

官房長官は「内閣の要」と言われる。すべての政策や人事に深くかかわる。総理に上がる情報は、その前に官房長官の手で取捨選択される。官房長官には総理より早く多くの情報が集まる。

領収書不要の官房機密費を管理するのも官房長官の権限。長官室の金庫には常に数千万円の現金が保管され、政界対策や世論対策に投入されていく。官房長官が札束を持ち出した翌日には金庫に現金がすぐに補充される。

もうひとつの武器は、毎日午前と午後に官邸で開く官房長官会見だ。この場の発言が政府の公式見解となる。何をどこまで公にするのか、どういう言い回しにするかが、政局や政策の流れを決める。官房長官は記者会見で政治の主導権を握ることができるのだ。

官房長官の権限は絶大だ。ある意味で総理を上回る。霞が関のエリート官僚たちは総理よりも官房長官の顔色をうかがうことが多い。総理としては最も信頼を寄せる政治家、決して裏切らない政治家を起用したい。安倍総理が塩崎氏を起用したのは同世代で親密な仲間だからだった。しかし「お友達内閣」は参院選で惨敗し、政権立て直しのためベテランの与謝野氏を受け入れざるを得なくなったのだ。

 

与謝野氏は与謝野鉄幹・晶子夫妻の孫としても有名である。東大を卒業した後、日本原子力発電を経て中曽根康弘元総理の秘書となり、政界入りしたサラブレッド。財務省や経済産業省に大きな影響力を持つ経済政策通として評価される一方、ハト派・リベラル派の顔を持ち、マスコミ界との交流も深かった。

官僚でもとりわけ与謝野氏を敬愛していたのが、のちに経産事務次官になる島田隆氏である(岸田政権で事務次官経験者としては異例の首相秘書官に就任した)。島田氏は与謝野氏が通産大臣の時に信頼を獲得。与謝野氏が小泉内閣で竹中平蔵氏の後継の経済財政担当大臣になり、総務大臣に転じた竹中氏と激しい政策論争を繰り広げた時も、側近として仕えた。どんな職務にあろうとも東京・六本木の与謝野邸に早朝から通い、英字新聞を含め与謝野氏が読むべき記事を用意してから職場へ向かうスーパー官僚だった。衆目が一致する与謝野氏の右腕である。与謝野氏の官房長官就任にあわせて秘書官に就任したのは自然の流れだった。

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