TBS報道特集「原発事故と甲状腺がん」炎上問題、偏向報道の代償はどこに降りかかるのか

報道のリテラシーが問われている
林 智裕 プロフィール

番組の何が問題だったのか

同番組の問題点は無数にあるが、大きくは3つに集約できる。

1)国際的なコンセンサス、科学的知見や事実に真っ向から反している
2)この問題を議論する上で必要不可欠な先行研究や専門家・当事者を無視したり、恣意的な切り貼りをしている
3)被害当事者の救済と被害拡大抑制に逆行する

まず最初に、1)について。番組で金平茂紀キャスターは「それまでの平和な日常が、ある日突然破壊されるのは今のウクライナのような何も戦争だけではない。11年前の東電福島第一原発事故による放射線被曝。福島県で暮らしていた子供たちがその後、甲状腺がんで苦しんでいる」と語った。

番組中でも「原発事故と甲状腺がん 関係は?」とテロップを付けつつ「原発事故がなければ私は癌には絶対ならなかった」という、不正確な発言を肯定的に流していたのだ。

TBS報道特集公式ツイッターより

番組は終始、あたかも東電原発事故由来の被曝によって子供たちに甲状腺がんが多発したかのように誘導していたが、これは明確に誤っている。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)」は2013年に福島第一原発事故の報告書を公表し、その後も、新たに発表された論文や調査結果を反映した白書を、2015、2016、2017年と3回公開してきた。2021年3月には事実上の結論となる報告書を公開したが、その内容は次の2点に大きく集約される。

【 福島第一原発事故後、福島の住民に放射線被ばくによる健康影響は見られていない。将来的にも予想されない 】

【 原発事故後の福島で行われている甲状腺検査(原発事故当時18歳以下だった子どもや若者を対象にした甲状腺がんスクリーニング検査)で見つかった多数のがんについては、過剰診断(検査で見つからなければ一生症状を出したり死亡につながったりしなかったがんを見つけてしまうこと)が起きている可能性がある 】

なおUNSCEARは公平な立場を担保するため2020/2021年報告は、日本人は補助的な役割に徹し、主たる執筆には関わっていない。利害関係のない他国の科学者=第三者の考えに基づいて書かれている。

引用)「UNSCEAR最終報告・福島の住民への放射線被ばくによる健康影響は見られない――明石眞言氏インタビュー」(シノドス 2022.05.22 服部美咲)

ところが番組はそれだけに留まらず、さらに「専門家」として岡山大学大学院の津田敏秀教授を出演させ「事故による影響というのは様々な証拠からみますと全く否定できない」などと述べさせている。

 

しかし、これは断じて「両論併記」などと正当化できるものではない。

津田氏は過去にUNSCEARなどの見解に異を唱えた論文を世界で唯一発表した(つまり津田氏以外からは全く異論は出なかった)が、この論文も、2016年に公表されたUNSCEAR白書で言及された上で、「放射線によって甲状腺がんの発見率が増加したことを実証したと主張しているが、この解釈を正当化するには、調査の計画と方法があまりにも偏りが生じやすいものであった」と切り捨てられている。

参照)「福島における甲状腺がんをめぐる議論を考える――福島の子どもをほんとうに守るために」(シノドス 2018.05.12)

にもかかわらず、番組にはすでに否定された主張を繰り返す津田氏以外の「専門家」が全く登場しない。そればかりかUNSCEAR報告書への言及すら一切無かった。

つまり、番組は、2)で指摘したように、この問題を議論する上で必要不可欠な先行研究や専門家、当事者を無視している。何度も繰り返し出されている国際的コンセンサスは存在すら隠した上で、それらに何年も前に否定されている主張を正当化したのだ。

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