――なるほど。ライフハックや自己啓発について、これまでとは違う方向から見ていくことの可能性も感じます。
千葉 ライフハックや自己啓発って、ある種の「工夫」ですよね。知的な工夫や生き方についての工夫です。こうした工夫というのは、一部の人からは軽視されるんですよ。細かい工夫をするよりも「大きくて太くて強い論理で押し切るほうが偉い」といったニュアンスのことが言われることがありますが、それは「男性的」な発想だと思います。
それにたいして、調整や工夫は、こういう二項対立が世の中にはあると思うのですが、「女性的」なものと見なされる傾向がある。男性のなかには、ある程度の年齢になるとあまり工夫をしなくなる人が少なくない。工夫というものには、一種の女性差別的な眼差しがしばしば向けられているのではないかと思います。その点で、自分は女性的――これは精神分析的な意味ですが――だと感じています。
さらに言えば、「工夫する」というのは、言葉で言うのは簡単ですが、意外に苦手な人が多いのかもしれない。冒頭の教育についての話とも関わりますが、僕の教育活動は、工夫のやり方を伝えることなんだと思います。ところが、「工夫したらもっと楽になるかもよ」と言うと、「だからどうした」みたいな反応、反発するような圧力がけっこう強い。
もっとも、まさに細かい工夫を積み重ねすぎるせいで神経症的な状態になることもあります。だから「そんなに工夫してもしかたないよ」っていう意見もそれはそれで意味があって、そこは微妙なところだとは思いますが…。
ともあれ、僕のことを「工夫の人」と言ってくれる読者の方もいて、僕が考える工夫が誰かの役に立っているとすれば嬉しいことです。
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インタビュー【後編】「哲学者・千葉雅也が語る「現代思想をスルメのようにじっくり噛み締める」ための方法」は、6月5日朝6時に公開します(公開後、リンクが有効になります)。