一緒に暮らす犬や猫は、家族の一員としてかけがえのない存在だ。だが中には不幸な生い立ちを持つものもいる。保護犬、保護猫を引き取る時は、そうした事情を把握している仲介者が接し方を教えてくれることもある。だがペットショップで売られている犬や猫はどうなのだろうか。

ペットの問題行動の原因を突き止め解決する動物行動学博士の高倉はるか先生は以前、飼育破綻したブリーダーから犬の保護を手伝ったことがあるという。

「その中にいた4歳くらいのプードルは、抱きかかえてケージから出しても、そのままの恰好で身動きしません。犬の目はガラス玉のようで感情は失われ、開いていても何も見ていませんでした」

目は開いていても、何も見ておらず、何にも反応しない。写真提供:前田暁彦

水槽の中の魚のように箱の中だけでただ生かされていただけの犬。感情を失った4歳のプードルは、どうなったのか。東京大学農学部獣医学科卒業後、同大学大学院農学生命化学科獣医学専攻博士課程在学中に渡米。カルフォルニア大学デービス校付属動物病院にて行動治療学を学び、ペットと人が信頼関係を深めながら互いに気持ちよく暮らすための提案をする高倉はるか先生に話を聞いた。

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ケージの中しか知らない

「そのブリーダーは劣悪な環境で繁殖を繰り返し、結局手に負えなくなり経営破綻に陥りました。犬たちはまだ子犬の内に狭いケージの中に入れられて、繁殖だけさせられてきました。生まれてから一度も散歩や遊びの経験がなく、ケージから出たことさえありませんでした。だから保護されケージから出されても、どうしたらいいかわからず、置かれたままの恰好でいたのです。その子を大学の教え子の一人が引き取って移住した島で飼うと言うのです。正直『この子をリハビリするのは難しいだろう』と思いました」(高倉先生、以下同)

ケージから出しても、身動きできなかった。写真提供:前田暁彦

ところが1年後に様子を見に行くと、驚くことに犬が生き生きとした表情を取り戻していたという。

「目を輝かせ、飼い主の顔を見ながらお散歩していました。彼がどれだけ苦労し、根気よく接したかがよくわかりました。彼と出会えて本当に良かった」

抜け殻だった当時とは一変、くるんと名付けられた犬は飼い主を安らかな表情で見上げる。写真提供:前田暁彦
今では感情豊かに訴えかける、くるん。写真提供:前田暁彦