崩壊する朝日新聞 政治部エリートの経営陣はどこで何を間違えたのか?

中島岳志×鮫島浩『朝日新聞政治部』刊行記念緊急対談(1)

気鋭の政治学者・中島岳志氏は、元朝日新聞記者・鮫島浩氏が上梓した『朝日新聞政治部』にこんな推薦コメントを寄せている。
「これほどの生きたジャーナリズム論に出会ったのは、はじめてだ。ここにはメディアの未来を考える重要な実体験が描かれている」

中島氏と鮫島氏、両者の希望により実現した緊急対談の内容を、今日から3回にわたって公開する。
第1回は、同書で最も重要な場面として描かれる「吉田調書事件」の裏側について。中島氏は2014年当時、朝日新聞の「紙面審議委員」を務めており、この問題について識者として朝日新聞に意見を求められていた。(この対談の動画を「鮫島タイムス」で特別公開中)

木村伊量社長が「慰安婦問題」に手をつけた理由

中島 すごい本でした。引き込まれて一気に読みました。本を読み終えて、鮫島さんに質問したいこともいくつかあったので、今日は対談できて嬉しいです。

鮫島 こちらこそ、ありがとうございます。なんでも聞いてください。

中島 まず最初に、学問的に見ても、この本には二つの大きな位置づけがあります。

一つは、2014年に朝日新聞を襲ったいくつかの出来事はメディア史に残るものであり、今後は「研究対象」になっていくと思っています。その一番のキーマンと言える鮫島さんが、まだ記憶が新しいうちに本書を書き残してくれたことは、メディア史にとっても大きな意味があります。

対談はオンライン形式で行われた

中島 もう一つは、これまで「退職した朝日の記者」が書いた本は、どちらかというと右派に利用されていました。鮫島さんの本は違います。朝日の官僚的な部分を批判しているけど、思想的にはむしろ右派に対して厳しいことを書いている。その意味で、これまでの「朝日OB本」とは一線を画しています。読む前に勘違いするなよ、と言いたいですね。

鮫島 ありがとうございます。ただ、私には学問的位置づけという高尚な考えはなくて、自分の新聞記者人生をありのまま残しておきたい、という気持ちでした。吉田調書事件はたしかに大きかったけど、それ以外にも、振り返ってみると我ながらなかなか面白い会社人生だったと思います。

極力、後講釈の分析ではなく、自分が体験したことに絞って書くと決めていました。本書の9割は、私自身の体験です。

2014年に朝日新聞で起きたことを理解するためには、あのとき朝日の中枢にいた人たちがどんな人なのか、朝日の社風や文化はどんなものか、リアルに描かなければいけない。そう考えているうちに、ディテールがどんどんリアルになっていきました(笑)。

 

中島 私自身、紙面審議委員としてあの問題にかかわっていたけど、本を読んで「そういうことだったのか」と驚くことがたくさんありました。たとえば、朝日新聞はあのとき、最初は「慰安婦記事の取り消し」でバッシングを受け始めたはずです。それが、あれよあれよと吉田調書の問題になっていき、最後にはそれが原因で木村伊量社長が辞めるという。

それがどうしても腑に落ちなかったんだけど、鮫島さんの本を読むと、そうなっていくプロセスがよくわかりました。

鮫島 これは本書のキモの部分でもありますが、そもそもなぜ、木村伊量社長は「慰安婦記事の取り消し」に手をつけたのか、というのが最大の謎として今も残っているんですね。

中島 それについて、鮫島さんは本のなかで、ある「仮説」を立てている。

鮫島 はい。その仮説は、朝日のある大物政治部OBの見立てでもあるのですが、実は社内の「権力闘争」の結果として、木村社長は慰安婦問題の解決を「やらざるをえなかった」というのです。

あえて簡単に言うと、木村氏は「慰安婦問題をやります」と前社長の秋山耿太郎氏にアピールすることで、社長になれたのではないか。ではなぜそのようなアピールが必要だったのか。ここでは紙幅が足りませんが、本に詳しく書いています。

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