2022.06.06
# 本 # エンタメ

NHK「100分de名著」担当P×アナが明かす「名著が現代人の心に刺さるワケ」

人気番組のウラ側を語り尽くす
誰もが一度は読みたいと思いながら、なかなか手に取ることができない古今東西の「名著」。その魅力を余すことなく届け、新たな視座をもたらしてくれるのがNHKの人気番組「100分de名著」だ。読書好きならずとも心が揺さぶられる放送回を連発する同番組を通して、人生を変える1冊に出会った視聴者も多いことだろう。では、「目利き」のプロである番組の担当者は、どのような視点で名著を選び、どんなメッセージを伝えようとしているのか。同番組の秋満吉彦プロデューサーと番組司会を務める安部みちこアナウンサーが、放送のウラ側を語り尽くす。(以下、敬称略)
(左から)番組MCを務める伊集院光さん、安部みちこアナウンサー/NHK提供
 

「旬の1冊」をどう選んでいるのか

「100分de名著」を見ると真っ先に感じるのは、はるか昔に作られたはずの「名著」に書かれている内容が、現代を生きる私たちの心に響く「旬」なメッセージになっているという点だ。放送現場では、一体どうやって今の時代に合った1冊をセレクトしているのだろうか――。

秋満:皆さんには「なぜこんなに今の時代にぴったりな本が選べるんですか」「全部計算しているんですか」とよく言われるんですが、そうではないんです。

この番組は放送に先行してテキストを出しているため、執筆を依頼する先生のご都合も考えると、番組の企画は放送の8~9ヵ月前に通さなければなりません。すると放送の1年ほど前にはすでに仕込んでいることになるんです。

秋満吉彦プロデューサー/本人提供(写真は対談時のものではありません)

もちろん、その時の社会情勢などに全力でアンテナを張ってギリギリまで考え抜いてはいます。ただそれだけではありません。大切なポイントは 「名著の持つ普遍性」です。

例えば2021年2月の放送では精神科医・フランツ・ファノンの『黒い皮膚・白い仮面』を取り上げました。ファノンは仏領マルティニーク島で生まれ、アフリカからこの地に連れて来られた奴隷を祖とする黒人です。彼は自身の体験に即し、なぜ差別が生まれるのかを精神医学・心理学を使って解明しようとします。『黒い皮膚・白い仮面』はその集大成なんです。

番組放送のきっかけは2020年5月、アメリカで白人の警察官がジョージ・フロイドさんを死亡させる事件があったことです。放送はタイムラグがありますが、それでもこの問題をないがしろにしてはいけないと考えて制作しました。その結果、放送前にテキストの増刷がかかるなどの反響があったんです。

当時は大坂なおみさんがマスクを着用することで抗議の意思を示すなど、BLM運動が継続していたこともありますが、それ以外にも女性やマイノリティの方への差別など、その人それぞれにとっての日常の問題と関連させて見て頂けた方もいて、テーマに普遍性があったのだと思います。

私は「名著は現代を読む教科書である」という理念を持っていて、そういう普遍性の凄さを探り当てると、時代に合うメッセージとなるというのが実感ですね。

そういう意味では、安部さんは子育て中ですから、自分の育児経験、家族との付き合いの中の問題とかを放送で絡めてくれるのですが、それも普遍性があるからつながるんですよね。

安部:本当にそうです。例えばオルテガの『大衆の反逆』(2018年度放送)は社会や国家といった大きなテーマが論じられているのですが、私が読むと「ママ友との付き合い方」について語られていると感じました。私と同じ世代の女性がこの本を読んだら「空気を読まなくていいんだ」「意見の違う人に合わせすぎなくていいんだ」と思えて、肩の力が抜けると思います。大事なのは、自分は間違うと自覚すること、だから、自分と意見の違う人こそ大切にすることなんですね。

秋満:そうですね。名著は鏡のように自分を映してくれるんです。だからびっくりするくらい人それぞれに“感動ポイント”が違っていて、「そういう風に読んでくれたんだ、感じてくれたんだ」というのはありますね。

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