“自撮り”で番組制作…!? コロナ禍で現地取材ができないNHKスペシャル取材班の模索

コロナ禍が突きつけた「現地に行かずにどう番組を制作するか」という難題──当時、NHKスペシャル取材班は何を考え、どのように番組を制作したのか。新刊『NHKスペシャル取材班、「デジタルハンター」になる』では、デジタル調査報道を通じて新しいテレビ報道の形に挑戦した記録が綴られている。まずは、ミャンマー報道に辿り着くまでに試行錯誤を繰り返した現場の模索を紹介する。
 

コロナ禍で直面したドキュメンタリー制作の壁

世界で新型コロナウイルスの感染が拡大し続けていた2020年の秋──。

NHKの北館3階にある報道局政経・国際番組部(国際班)の居室は、普段より人口密度が高くなっていた。少し前に行ったリフォームによって、部屋は自席が決められていない流行のフリーアドレスとなっていたが、人数分の席が足りずに、新設された会議スペースなどで作業をしている者もいる。なぜか?

もともと、ここは、国際ニュースや国際番組を制作するディレクターなどが所属し、NHKの国際報道を支えてきた部署の一つである。

当時、ここでチーフ・プロデューサーを務めていた私も、それ以前はワシントン支局の特派員を務め、帰任後の4年間で、国際情勢を対象とした「クローズアップ現代+」や「NHKスペシャル」などを数多く制作してきた(登場人物の部署名や肩書きは2022年3月までのもの)。

当然、集まってくるディレクターたちもみな海外ロケで幾多の修羅場をくぐってきた強者ばかり。これまでだと多い時には同時に10名近くがそれぞれの担当番組の撮影のために世界各地に出張し、散らばっていた。

フリーアドレスの設計担当者は、そうした常時不在の人数を考慮したうえで、席数を計算していたのだが、そこに大きな誤算があった。

世界的なコロナの感染拡大の影響で、ディレクターたちが海外出張に行けないケースが続出してしまい、想定外の人数が居室で作業をするようになってしまったのだ。

チーフ・プロデューサーの私は、現場に行けずに悶々としていたディレクターたちから「いつになったら海外出張に行けるんですか?」と、日々、突き上げを食らっている状況だった。

もちろん、行き先や時期によっては出張に行けるケースもわずかながらあったが、多くの場合は、ディレクターから出張の相談をされるたびに、何かしらの壁に突き当たった。

コロナで入国が制限されている場合はもちろん、取材ビザが発給されなかったり、入国はできても隔離期間の長さを考えて断念したり。さらには、取材先から撮影の延期を求められるケースもあった。こちらとしても、万が一にも取材先に感染させたりすることはできないため、慎重にならざるを得ない部分もあった。

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