公示日が近づいてきても、盛り上がらない参院選。これには「野党の責任が大きい」と、鮫島浩氏と中島岳志氏は声を揃える。
古巣が凋落する様を赤裸々に暴露した『朝日新聞政治部』が大きな話題を呼んでいる鮫島氏が、気鋭の政治学者・中島氏と参院選を大胆予想。
私たち有権者ができることは何か?(この対談の動画を「鮫島タイムス」で特別公開中)
山本太郎という政治家に涙を流した日
中島 私と鮫島さんは山本太郎さんを高く評価しているという共通点があります。私の場合、それは2019年の参議院選挙にさかのぼります。
最初、山本太郎とれいわ新選組が出てきたときは、まったくノーマークでした。それが、あれよあれよという間に、何億円ものカネが集まりました。普段、政治に関心をもたないような本当に貧しい人々、ポケットに何百円しか入っていない人たちに届く声を持っていた。そこにこれまでの日本政治と、ましてや立憲民主党のような野党と、まったく違う風景を見たんです。

鮫島 私にとっても、2019年の衆院選は衝撃でした。「吉田調書事件」でデスクを解任されて以降、永田町取材から少し距離を置き、政治を遠くから眺める月日が続きました。その中でたまたま、れいわ新選組が比例区に擁立した、重度障害者の木村英子さんの街頭演説を品川駅前に見に行ったんです。
「私はこれまでずっと施設に閉じ込められてきた。この選挙がないと、ずっと出て来られなかった。私は救い出してもらった」
木村さんの声はとても澄んでいて、私はそれを聞きながら泣いてしまったんです。
政治記者としてこれまで数え切れないほど街頭演説を聞いてきましたが、泣いてしまうなんて初めての体験でした。自分でもびっくりしてハタと周囲を見ると、周りのおじさんたちも泣いていました。
苦しんでいる当事者を、選挙に出して国政へ送り込む。政治の原点はこれだ。自分は政治記者として何を見てきたんだろう、と反省しました。自分の政治に対する過去の取り組みを、一度ゼロからリセットしなければならない、と思ったんです。
中島 私も同じような体験を2019年にしています。
山本太郎さんが参議院議員を辞して衆院選に出ると決断した後に、議員会館で山本太郎さんと会ったんです。そこで、「相談がある」と言われました。どんな相談かと思ったら彼はこう言いました。

「衆院選では、特定枠(比例区で特定の議員を優先的に当選させる制度)を使おうと思っている」
私は、「え、どういうことですか? あれは自民党が合区にともない、苦肉の策で編み出した制度ですよね?」と聞き返すと、彼はこう答えたんです。
「どうしても当選させたい人がいる。僕はこの人たちに、とにかく国会に行ってほしい。木村英子さんと舩後靖彦さんに」
それを聞いた瞬間、私はびっくりしたし、実は内心で猛烈に感動していました。ああ、こういう考え方があるのか。これまでの立憲民主党などの野党とは、考え方がまったく違う。すごいことを考えるんだな、と。
こちらも目の前で感動するのは恥ずかしいから、その場では澄ましていました。でも彼との面会が終わって、永田町駅のエスカレーターを降りているときに、涙がボロボロとこぼれてきたんです。
私も政治学者として、これまでの向き合い方を反省しなければならない。山本太郎さんのように、できないことをやろうとする「直球」へのリスペクトを忘れてはいけない。
それが、私と山本太郎という政治家の、関係のスタートでした。
鮫島 いわば私たちは二人とも「政治を観るプロ」だったはずですが、その二人の心をこれだけ揺さぶる力が、山本太郎とれいわ新選組にはあったということです。2019年の衆院選で山本太郎がやろうとしたのは、単なる選挙ではなく「運動」でした。この運動を応援していきたい、これが日本の政治を変えるかもしれないと、本気で思いましたね。