「朝日新聞の没落は他人事ではない」 グーグル日本法人元代表が指摘する「日本病」とは

『朝日新聞政治部』書評

ソニーでVAIOなどの大ヒット商品を手がけ、グーグル日本法人代表取締役社長を務めた辻野晃一郎氏が、「日本企業が没落する理由がこれを読めばわかる」と推薦する本が、『朝日新聞政治部』だ。
同書は、朝日新聞政治部の元エース記者だった鮫島氏が、ある事件をきっかけに失脚し、会社に最後まで抗いながら退職するまでの出来事が生々しく描かれている。

朝日新聞の凋落は「あなたの会社の凋落」に重なる

圧倒的な面白さで読み応え十分なノンフィクションだ。新聞記者生活で鍛えられた鮫島さんの確かな筆力で綴られた本書は、一度読み始めたら引き込まれて止められない。ところどころで日本の政治史や事件簿を再確認しながらも、一気に最後まで読み進んでしまう。

舞台は天下の朝日新聞社。ネットメディアの台頭に押されて凋落を続けるオールドメディアの「凋落の本質」が、鮫島さんという一人の反骨精神豊かなエリート政治記者の栄光と挫折を通じて生々しく描かれている。

凋落の本質とは、詰まるところ「自滅」だ。諸行無常の世にあって盛者必衰は古くからの真理。変わるべきタイミングで変わることができない存在は、それが企業だろうが国家だろうが個人だろうが例外なく滅びていく。

本書を単なる暴露本のようにネガティブ評価する人がいるようだが、そんな薄っぺらなものではないし、そうした解釈で片付けてしまってはもったいない。

かつてなく大きな変動が続く世界の中で日本の埋没感は際立っている。それを裏付けるデータは多々あるが、例えば世界GDPにおける日本のシェアは1994年がピークで18%を占めたものが2021年は5%にまで下がった。本書にも指摘がある世界の国別報道自由度ランキングは、2010年の11位から2022年には71位へと大きく後退した。

日本の埋没に有効な手を打っていくためにはその原因を探らねばならない。そのためには、日本社会や日本企業の内情をブラックボックス化させずに白日の下にさらけ出し、内包する問題を特定して検証する作業が欠かせない。そのような意味合いにおいて、本書は、日本の埋没が止まらない原因を解明するための好材料でもある。ここに描かれた「朝日新聞の凋落」は、その内情を知り尽くした鮫島さんによる勇気ある内部告発だが、それは鮫島さんにしか書けない「吉田調書」以上に価値ある「特ダネ」なのだ。

本書が描く朝日新聞社の赤裸々な内情は衝撃的だが、どんな企業や組織にとってもけっして他人事ではないだろう。メディア関係者に留まらず、あらゆる経済人や企業人をはじめ、組織で働く人たちには是非読んで欲しい。読み終わったときに、「朝日新聞の凋落」は「自社の凋落」とも重なっていることに気付き、背筋が寒くなる読者も多いのではないか。

私が鮫島さんの存在を知ったのは、国会議員の小川淳也さんを描いた映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』のオンライン上映を見たのがきっかけだった。映画の終了後、小川議員と鮫島さん、他に政治記者を一人交えた鼎談が収録されていた。同郷で高校の同級生という小川議員に対し、温かくもストレートで厳しめのコメントを穏やかな語り口で連発しているのが印象的だった。

それ以来、ツイッターなどで鮫島さんのアカウントをフォローし、「SAMEJIMA TIMES」も時々見るようになった。ネットで発信される鮫島さんの主張や指摘には共感するところが多い。本書も、電子書籍だけでなく紙版が欲しくて発売と同時にアマゾンで入手しようとしたのだが、在庫切れになっていたので近所の書店に行って購入した。ちょうど一冊だけ残っていたことに縁も感じたが、実際に会ったことはない。

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