「分配」は後退して「投資」へ
また、これまでの選挙公約では、沖縄の基地問題について、負担軽減、周辺対策、事故防止などが触れられてきた。しかし、今回の公約案では、
《復帰50年を迎えた沖縄が日本経済成長の牽引役となるよう、沖縄振興を国家戦略として推進し、「強い沖縄経済」を実現します。》
とわずか2行に留まっている。
そして、国民に直結する経済対策はどうか。これまで岸田首相は新しい資本主義を打ちだす中で「分配」を重視してきた。しかし、公約案では、
《国民の皆様に“豊かさ”を実感していただくためには、「成長」と「分配」の両面が必要です。人、技術、スタートアップへの投資を拡大し、国民の所得を増やします。賃金が上がり、消費が増えて、投資が拡大する好循環を生み出します。》
として、成長や投資の姿勢を打ち出した。

《規制緩和と税制など政策総動員で魅力的な投資環境を実現します。世界のマネーを
呼び込むとともに、「貯蓄から投資へ」の流れを大胆に生み出し、成長の果実を多くの国民が手にする資産所得倍増社会を実現します。》
これまで強調していた「分配」が後退して「投資」を促す方針が明確になっている。
だが、コロナで国民生活は大きく傷ついた。その日の生活の糧すら余裕のない国民も多数いる。「今食べることがぎりぎりで、貯蓄すらほとんどない。どうやって投資するのか」──そうした声に対して、岸田首相はどう反論するだろうか。
さて、公約の最後の柱にあげられているのは、憲法改正だ。
《みんなで憲法について議論し、必要な改正を行うことによって、国民自身の手で新しい“国のかたち”を創る。それこそが「国民主権」のあるべき姿です。》
岸田首相は憲法改正に踏み出したい意向をにじませている。
今から3年前、2019年7月の参議院選挙は安倍政権だったが、その時の公約では《国民の幅広い理解を得て、新しい時代の憲法を目指します。》とある。今回は、「必要な改正」として「あるべき姿」をさらに前進させるような文言となっている。
公約案を見た前出の田村氏が語る。
「安全保障政策は完全に中国シフトとなり、日米はじめ諸外国と歩調を合わせる姿勢だ。憲法改正を強く打ち出したのはなぜか。衆議院は10増10減の定数見直しがなされ、しばらく解散ができないし、次の次の参議院選挙は2025年。つまり今後3年ほどは国政選挙はないでしょう。そこで今回の参議院選挙で大勝して、衆議院と参議院で3分の2の改憲勢力を確保できれば、憲法改正には十分時間があると踏んで、公約も積極姿勢を出したのではないか」
長期政権も予測される岸田政権に綻びはないか。各党の公約も仔細に点検し、7月の参院選に臨みたい。