2022.06.20
# 鉱物 # 地層

手のひらサイズの実験装置で、深さ約6400kmの地球の中心の超高圧を再現!

誰も見たことのない世界への扉を開く鍵

《この本の著者に聞いてみた》第4回

『地球の中身——何があるのか、何が起きているのか』の著者

廣瀬 敬  さん(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授)

我々が踏みしめる大地の下には、ドロドロに融けたマグマがある――。

あながち間違えではない。ただ、「ドロドロに融けたマグマ」が存在しているのは、活火山の下だけだ。では、大地の下には、マグマ以外に何があるのだろうか。

ざっくりと結論を述べてしまおう。大地の下には、「地殻」という岩石の層がある。「地殻」の下にはより重い岩石からなる層「マントル」が存在する。マントルは、上から「上部マントル」「マントル遷移層」「下部マントル」「最下部マントル」の4層に分けられる。さて、最下部マントルをさらに掘り下げていくと、ついに地球の中心を占める「コア」に到達する。

以上が、「地球の中身」の概要だ。もちろん、地下深くまで掘り進めて中身を確認したわけではない。種々の観測データや実験などから推測されたものだ。では、どのようにして「地球の中身」を推測するのか。廣瀬敬氏(東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 教授)に話を聞いた。

地球深部を掘らずに知る!

——廣瀬先生のご専門は、地球科学の中でも特に「高圧高温実験」だとお聞きしました。高圧高温実験の概要とその重要性について、改めて教えて頂けますか。

廣瀬敬氏(以下、廣瀬):高圧高温実験は、地球の奥深くを構成する岩石や鉱物を人工的に作り出す実験です。

地球の表層で僕たちは生活しています。地球の表層でも、もちろん様々な岩石を入手して調べることができます。しかし、地球の奥深くには、地表のものとは全く異なる性質を持つ鉱物や岩石が存在している。地球の中身を理解するには、地表にある岩石や鉱物を調べるだけでは不十分です。

地球の中身を構成する岩石や鉱物は、地表では入手困難です。そこで、地球深部の高圧高温の環境を実験室で再現し、地球の中身を構成する鉱物を人工的に作る。そして、それがどのような性質を持っているのかを明らかにすることで、はじめて地球の中身を理解することができるのです。

——実際に地球を奥深くまで掘り進めようというプロジェクトが進行している、と聞いたことがあります。そのようなプロジェクトと先生の研究との関連性について、教えてください。

廣瀬:人間が掘れる深さには限界があります。これまでの最高記録は、深さ12km。これは、大陸地殻を掘った記録です。大陸地殻の厚さは30~50kmあるので、半分にも達していません。

海洋地殻を掘ろうというプロジェクトも進められています。海洋地殻は大陸地殻よりも薄く、厚さは6km程度。これも、かなりチャレンジングな試みです。2022年4月現在、海洋地殻を掘り抜くことはできていません。

地球の半径は約6,400km。たとえ地殻を掘り抜いても、地球の深さの1%にも満たない。地球を掘ることで地球の中身を知るのがどれだけ難しいことか、想像がつくと思います。もちろん、地球を直接掘り進めて、実際に岩石や鉱物を採取することは非常に重要です。

一方で、僕は地球深部を構成する岩石や鉱物を実験室で人工的に合成し、その性質を理解することに挑戦しています。そして、その結果を他の地球科学の分野にフィードバックしていくことが必要不可欠だと考えています。

【図】地球の構造地球の内部構造の概略と、主要鉱物(『地球の中身』より)

手のひらサイズの最先端装置

——高圧高温実験は、どのように行うのでしょうか。

廣瀬:僕の研究室では、「ダイヤモンド・アンビル・セル」という特殊な装置を使用します。手のひらにのるくらい小さな装置ですが、試料にとても高い圧力をかけることができます。

実験は、試料の準備から始まります。ダイヤモンド・アンビル・セルの中央には、富士山のような円錐台の形にカットしたダイヤモンドが仕込んであります。円錐台の上面上に、薄い箔にした試料を置きます。箔のサイズは20~100ミクロン(0.02~0.1mm)程度。とても小さいです。

試料をのせたら、上からダイヤモンドの蓋をかぶせます。2つのダイヤモンドで試料を挟み込む。そして、加圧スタート。

加圧方法はとてもシンプルで、六角レンチを使って装置のねじを回すだけです。六角レンチを回すときは、「はじめの位置から何度回転させるか」を目安にしています。言葉にすると単純ですが、結構、繊細な作業です。

それでも、きちんとねじを締めると10~15分程度で、地球のマントルやコアの圧力に相当する100万気圧、200万気圧という高い圧力を試料にかけることができます。

【写真】ダイヤモンド・アンヒル・セル装置ダイヤモンド・アンビル・セル(記事〈地球の中身はなんだろな? マントルの底、深さ2900kmの鉱物にタッチする!〉より)

——最先端の研究にもかかわらず、加圧作業はアナログで驚きました。今のお話が「高温高圧実験」の「高圧」の部分ですね。それでは、どのようにして試料を「高温」にするのでしょうか。

廣瀬:僕らが使う加熱方法は、試料への近赤外光レーザーの照射です。近赤外光は、透明な物質を透過します。ダイヤモンドは色がついていないので、レーザーで加熱されることはありません。試料のみがレーザーを吸収して高温になります。

ダイヤモンド・アンビル・セルを使用した実験の大きなメリットは、透明なダイヤモンドを使用している、という点。加圧中、加熱中も顕微鏡で試料の様子を観察できます。試料が融けた瞬間なども、しっかりと目で確認しながら実験することができるので、面白いですよ。

2010年には、ダイヤモンド・アンビル・セルを使って地球の中心(深さ約6,400km)の圧力と温度を超える環境を実験室で再現することに成功しました。この装置を使えば、地球の中のあらゆる物質を地表にいながら作り出すことができます。

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