新卒からずっと宗教法人職員だったぼくに一般企業勤務は無理なのか? 

36歳で巨大教団から転職!?(後編) 
新興宗教の家に生まれ、中・高・大と宗教系の学校に通い、新卒からずっと宗教法人職員として働く「ぼく」は、36歳にして転職を決意した————。
ライターの正木伸城さんが自身の転職活動を綴ったエッセイ。今回は後編をお届けします。
 

前編:教団の“ロイヤルファミリー”に生まれたぼくが転職活動を始めてみた

異業種交流会で起きたまさかの“事件” 

「(教団職員を)辞めるも地獄、辞めないも地獄」 

これは、当時のぼくの心情を表現してあまりある、教団大幹部だった父に言われた一言だ。確かに転職は、つらい、つらい挑戦だった。 

正攻法だけでは転職は望めない。焦ったぼくは、その後、異業種交流会にも顔を出すようになった。これも淡すぎる期待だけれど、ヘッドハントされる可能性も「なきにしもあらず」と思っていたのだ。 

しかし、思惑はいきなりくじかれることになる。 

ある交流会の2次会が居酒屋で行われた。15人くらいがテーブルを囲んでいたと思う。ひととおり自己紹介が終わり、歓談。そこで “事件”が起きた。ぼくがあらためて「〇〇という宗教団体の専従職員をしています」と語ると、正面に座っていた高齢の弁護士の方がこうつぶやいたのだ。 

「〇〇(教団名)か……。俺は〇〇に良い印象を抱いていない」 

瞬間、ぼくは固まった。彼は構わずつづける。 

「あなたたちの宗教への強引な勧誘は、世間では非常に評判が悪い。不評について、あなたたち自身はどう思っているのか。迷惑だと思わないのか」 

その場が、一気に凍りつく。ぼくはとっさに言い返したくなった。しかし、険悪な空気をこれ以上長引かせたくないという思いがわき、黙ってやりすごした。 

当然ながら、その後の交流会で「ぜひ、うちの会社に来なよ」といった話は出てこない(今から考えれば、あたり前すぎることなのだが……)。 

ただでさえ転職活動で心が折れそうになっていたところに、この一発である。ダメージは相当だった。 

 

「おのれ自身に忠実であれ」を貫く難しさ 

転職サイトにエントリーしてもダメ。エージェントに頼んで転職を試みてもダメ。異業種交流会に参加しても、人脈を広げてもダメ。また、友だちのつながりをたどって探すなど八方手をつくしたが、それらも全部ダメ。悲しいかな、ぼくには転職市場での需要がなかった。 

「教団本部に残るしかないのかな」 

そんな思いが脳裏によぎる毎日。でも――「でも、でも、でも、自分にウソをつきつづけて本部にとどまるなんて、どうしてもできない。教団組織に違和感をいだいてしまった自身にとって、『残留』はつらすぎる!」 

ぼくは、ジレンマに苦悩した。 

かのシェイクスピアは書いた。「おのれ自身に忠実であれ」と。しかし、この名言が出てくる『ハムレット』で、シェイクスピアは、自分に正直に生きることの難しさと、正直に生きることで逆につらい思いをするという皮肉を描いた。そう、現実はそうかんたんにはいかないのだ。 

ところが、そうこう呻吟しているうちに、ひょんなことから光明がさすことになった。 

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