2022.06.18
# 企業・経営

いま「転勤を強制しない」大企業が増加中…そのウラに隠れている「意外な落とし穴」

前川 孝雄 プロフィール

自分で決められる人事の落とし穴

転勤や異動などを従業員が自分で決められることは、個人にとって優しい会社が増えて良いことだと感じる人も多いだろう。会社都合人事を所与の条件とし働いてきた30代以上の人にとってみれば、社員を甘やかすものではないかと感じるかもしれない。

しかし、私はむしろ働き手にとって非常に厳しい時代に入ったと考えている。

なぜか。かつては若手時代に想定外の配属・異動や転勤を命じられ、そこで多様な人や仕事との出会いがあり、意外な自身の強みや可能性が見つかり、成長の機会を得られたものである。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授も、偶然の出来事によってキャリアは拓けていくというプランドハプンスタンス理論(計画された偶発性理論)を主張している。

しかしこれからは、会社都合人事による偶然の出会いは減っていき、それによってキャリアが拓かれる機会は減少する可能性がある。ともすれば狭い世界に留まり続ける井の中の蛙になりかねない。世の中は目まぐるしく変わり続けているのに、現状維持でスキルも磨かれなければ、早晩市場価値の低い人材になってしまうだろう。

長く活躍することも当然おぼつかなくなる。そうならないためには、自ら想像力を働かせて様々な選択肢を考え、自分の意思とチャレンジによってキャリアを切り拓いていかなければならない。これは容易なことではない。

 

ダイバーシティマネジメントの進化が求められる

また個人尊重の潮流は、会社経営の難度も飛躍的に高めることにもなる。コロナ禍や天災、戦争など想定外の変化が次々と起こる現代においては、機敏に戦略を変更し人事・組織も変えることが求められる。そのなかで社員個々の事情も配慮しなければならないことは二律背反になりかねないからだ。

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