深海魚の「チョウチンアンコウ」は"発光する魚"として有名だ。では、深海に「光るサメ」がいることは、ご存じだろうか?
じつは、日本の海には、多くの種類の発光ザメが生息している。ただ、海中で光を放つようすが実際に観察されたケースはきわめて少なく、その生態は謎に包まれている。サメたちはいったい、どんなふうに光るのか。そして、彼らが光を放つ理由とは──。
体表をびっしり覆う発光器
まずは、深海にすむ「光るサメ」の実例を見ていただこう。
写真は、深海底で妖しい青い光を放つようすが近年観察された、ヒレタカフジクジラ(Etmopterus molleri)というサメだ。
カラスザメ属の一種で、日本やオーストラリア、ニュージーランドなどの水深200~900mに生息する。全長40~50cmと、サメにしてはちょっと小さい感じもするが、じつは、深海に暮らすサメのなかには、こうした小型種が意外に多い。
ヒレタカフジクジラの光る部分、すなわち「発光器」は全身に分布しているが、特に腹側が強く光る。
カラスザメ属のサメの発光器は、最大でも直径0.2mmほどしかない。微小な発光器が、皮膚の表面にびっしりと並んでいるのだ。

大西洋にすむ種類について、ベルギーの研究チームが調べたところ、1匹のサメがなんと44万個もの発光器をもっていたという。
一般に「光るサメ」とよばれるもののなかには、トラザメの仲間のように外部から光を浴びたときだけ「蛍光」を発するタイプもいる。一方、ヒレタカフジクジラやビロウドザメ(Zameus squamulosus)などは、発光基質をもっていて自ら光を放つ、いわば正真正銘の「発光ザメ」だ。
このような「自ら光を放つ」発光ザメは、世界で63種が知られている。このうちの52種を、カラスザメ属が占めている。
だが、意外なことに、63種の発光ザメすべてについて、実際に光を出す姿が確認されているわけではない。どういうことか。