光を放つ姿をとらえた!
軟骨魚類学が専門で、沖縄美ら海水族館統括の佐藤圭一さんは言う。
「じつは、本当に光ることが観察されているサメは、まだ15種しかいないんです」
それ以外の48種のサメについては、「体に発光器をもっている」という特徴をもとに、「生きているときは海の中で光っているのだろう」と推測されているにすぎないのだという。つまり、どんな光を、どのようなタイミングで発するのか、多くの種類でまだまったくわかっていないのだ。
そうした状況のなかで、佐藤さんら沖縄美ら海水族館の研究チームは2018年、ヒレタカフジクジラが深海で実際に発光する姿を世界で初めて撮影することに成功した。
それ以前から、実験用の水槽内で発光するようすは撮影されていたが、自然界で光を放つ姿はとらえられたことがなかったのだ。
現場は、沖縄本島・残波(ざんぱ)岬の沖合約10kmの海域だ。水深500mの海底に、エサをつけた超高感度カメラを沈めて撮影をした。

記録された動画*には、やや興奮気味にエサに噛みつく複数のヒレタカフジクジラが映っており、腹部から青白い光を放つようすが確認された。
*参考(記録された動画):〈光る深海ザメ「ヒレタカフジクジラ」の秘密に迫る〉(海洋博公園・沖縄美ら海水族館)www.youtube.com/watch?v=HCCm2TkjXC8
なぜ光るのか?
サメの祖先が地球上に登場したのは、今から約4億年前と考えられている。そして、「発光するサメ」のグループである「カラスザメ類」や「ヨロイザメ類」が現れたのは、約9000万年前~約6500万年前と推定されている。
つまり、これらのサメは早ければ恐竜時代に、すでに出現していたとみられるのだ。
この推計は、化石の情報と分子進化の研究をもとに導き出されたもので、佐藤さんは「発光するサメたちは、かなり昔から地球上に存在していた可能性がある」と話す。
ヒレタカフジクジラは、なんのために光るのか? 考えられる理由の一つが「護身」だ。
深海とはいっても、深さ1000m程度までは、わずかながら太陽の光が届いている。腹側を光らせることで、自らのシルエットを打ち消すことができれば、海の底のほうから狙ってくる大型のサメなどの捕食者に見つかりにくくなるメリットがある。こうしたしくみはハダカイワシ目などの魚でもみられ、「カウンターイルミネーション」とよばれる。
フジクジラ類の腹部の発光器は、真下だけをうまく照らす構造になっている。これは、カウンターイルミネーションに好都合なしくみといえる。発光器についているレンズのおかげで、光を散乱させず、下側の方向へと絞り込んでいるのだ。
実際、沖縄本島沖の深海で撮影されたヒレタカフジクジラの動画でも、体をちょっとひねって向きが斜めになると、腹部の光が見えなくなることが確認された。
そして、カウンターイルミネーションのほかにも、「光る理由」が存在すると考えられている。