2022.06.23

奥多摩山中で26歳男性がバラバラ死体に…BBQと共に行われた鬼畜たちの「狂気の宴」

現代ビジネス編集部

不思議な縁

早速、私は、この事件の下調べに取りかかった。まず、松井と紙谷が反社会的勢力と交流し、闇社会で蠢いた人物だったことから、その類いの者に接触を試みていった。殊に、過去の捜査を通じて信頼関係を構築してきた裏社会の面々と連絡を取り合っている中、六本木を根城にする半グレの「ヒロキ(仮名)」とたまたま知り合うことになった。私は、平成23年9~10月にかけて、このヒロキと接触して、紙谷について様々な情報を得た。

「紙谷は、キャバクラで雇われ店長をやっていたけど、あのころはパシリだったこともあり素直だった。しかし、松井とつるむようになっておかしくなったよ。平成20年頃だったけど、突然、紙谷から横柄な態度で電話がかかってきた。

『今、南アフリカに逃げている。人を殺してバラバラにした。不良中国人もビビる松井という凄い人と一緒だ。悪いけど、高級外車を調達してくれ。フェラーリとかベンツがいいな。コンビニの駐車場にエンジンをかけて止めておいてくれれば仲間が持って行くから』

紙谷は、高級外車を南アフリカへ飛ばしてさばく様子だった。当然断ったよ」

以後、ヒロキは、紙谷に関する情報を提供してくれた。

私が紙谷周辺の内偵捜査に力を注いでいると、今度は高井戸署から連絡が入った。

松井や紙谷によって、南アフリカに連れ去られた「マリコさん」の家族と会合を持つ連絡だった。“なんという展開だ。まさに今、見直している事件ではないか”私は不思議な縁を感じざるを得なかった。

平成23年10月19日午後、私たち未解決事件担当の捜査員は、高井戸署の会議室で悲痛な面持ちのご家族と面会していた。

「松井や紙谷が娘のマリコを南アフリカに連れて行って8年になります。何とかしてマリコを日本に連れ戻したいと思っています。外務省に相談したら警察にも相談して欲しいと言われました」

私は、切々と語るご家族の言葉に少なからず衝撃を受けていた。

松井らは私利私欲のため、マリコさんの人生を大きく狂わせてしまっていた。ネイティブ・イングリッシュを操り、インターネット環境に長けたマリコさんは、逃亡する松井らのアシスタントとして申し分のない能力を備えていた。マリコさんは、「ストックホルム症候群」※1の状態になっていたのかもしれない。

悪事が身に染み付いた松井は、「南アフリカまで日本警察は追って来ない、たとえ追って来たとしても、南アフリカは死刑廃止国だから、死刑制度のある日本へ身柄の引渡しはしない」と考えたのだろう。

ただ、松井にも誤算があった。

逃亡生活が始まって間もなく、ミドリの両親と兄弟が南アフリカに乗り込んで来て、現地警察官を高額な報酬で雇って一時的に松井と紙谷の身柄を拘束させ、その隙にミドリを連れて帰国してしまったのである。その上、帰国したミドリは警視庁に監禁罪で逮捕され、さらに起訴後、殺人等で再逮捕された。

この予期せぬ出来事により、松井らは警戒心をより一層強めることになった。

※1 誘拐や監禁などにより拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感の感情を抱くようになる現象

  • 『成熟とともに限りある時を生きる』ドミニック・ローホー
  • 『世界で最初に飢えるのは日本』鈴木宣弘
  • 『志望校選びの参考書』矢野耕平
  • 『魚は数をかぞえられるか』バターワース
  • 『神々の復讐』中山茂大