2022年4月1日より保険適用となった不妊治療。不妊治療が重要な医療行為だということを知らしめ、高額ゆえに諦めていた人たちにも治療の門戸が開かれたといえる。しかし、保険適用によってそれまでできていた治療を諦めざるをえないなどの問題点も指摘されるようになった。

その一つが、採卵時の麻酔である。
強い痛みを伴うことの多いこの処置で多くで行われていた全身麻酔が難しくなっている現状があるというのだ。NPO法人「UMI」代表で、東尾理子さんとのオンラインサロン「妊活研究会」を運営する森瞳さんと、日本の産科麻酔の第一人者である照井克生医師(埼玉医科大学医学部教授)に、出産ジャーナリストの河合蘭さんがインタビュー。不妊治療で使われるの麻酔の実態を伝え、不妊治療が保険適用になっても置き去りにしてはならないものは何かを改めて考える。

NPO法人「UMI」代表の森瞳さん(写真左)。不妊治療の末に第一子を授かった時は、今、共に「妊活研究会」を運営している東尾理子さんがお祝いにかけつけた 写真提供/森瞳
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体外受精で一番大変な「採卵」とは

「採卵」は、女性の腟に針を刺し、さらにその先の卵巣に針を刺して卵子を吸い出す手技で、体外受精の行程の中で最も身体への負担が大きい処置だ。麻酔は、多くの施設で、眠っているうちに終わる全身麻酔「静脈麻酔」を頼むことができた。
それが保険で治療する女性には簡易な麻酔しかおこなわないクリニックが出てきて、同会に集う不妊治療中の会員たちから「採卵が怖い」という声が次々に発せられているという。

保険の採卵で静脈麻酔をおこなうことに、保険制度上の問題はない。保険診療と自費診療の併用は「混合診療」とされ、日本の保険制度では禁止されているが、静脈注射は保険でずっと認められてきた麻酔なので保険でおこなう採卵にも使える。しかし、「問題は、保険でおこなう静脈注射の保険点数が低すぎることにある」と森さんは言う。

「保険の静脈麻酔の保険点数は、10分未満の麻酔では120点で、これは医療施設が受け取れる料金にすると1,200円という安さです。10分以上の手術になると保険点数が600点、料金にすると6,000円になりますが、全身麻酔は管理体制を整えベッドを準備する必要もあるので十分とは言えないでしょう」

森さんは自分自身も体外受精の経験者だが、森さんが自費診療しかない時代に治療をしていたクリニックは、静脈麻酔の料金として5万円という金額を請求していた。自費での麻酔は医療施設が自由に料金を決めるので、これは施設によって少し差はある。しかし森さんが会員などから聞いてきた話によると、5万円は採卵の静脈麻酔に不妊治療クリニックが請求する金額として標準的な数字と言えるようだ。

クリニックとしては、3月まで約5万円請求出来た医療行為が、4月1日からの保険診療では全国一律で1,200円や6,000円になってしまったということになる。

「今、保険適用で、体外受精の料金そのものが下がりました。そのうえに、患者数も急増して不妊治療クリニックは大変な状態。そこでどうしても、収益の上がらない、手間のかかることはやめるという方向に行ってしまうのでしょう」

不妊治療の保険点数は、これまでの自費料金の平均値にくらべて安く、特に都市部ではかなり下がった。全身麻酔を使うと、医療施設側の負担はさらに重くなる Photo by iStock