2022.06.25
# 本

作家・小川哲が、21世紀に「人工国家・満洲を舞台にした巨大な小説」を書いた理由

小川哲さんの『地図と拳』が発売されました。『ゲームの王国』で日本SF大賞と山本周五郎賞を受賞し、『嘘と正典』で直木賞の候補になった、いま最も注目される作家の3年ぶりの新作です。

作品の舞台は満洲(現・中国東北部)。日露戦争前夜から第二次世界大戦まで、満洲の名もなき都市で繰り広げられる知略と殺戮。そして、理想の都市を作ろうとした、日本・中国・ロシアの人間たちのロマンと挫折が描かれた大作です。

構想を始めた2017年から、膨大な資料を読み込み、中国東北地方への取材旅行も経て、5年の歳月をかけて完成させた本作の裏側を、小川さんに聞きました。

〔取材・構成〕長瀬 海

※この記事は『地図と拳』の物語展開の重要な部分に多く触れています。ネタバレが気になる方はご注意ください。

 

満洲を作ることと、小説を書くこと

――小川さんの新作『地図と拳』は満洲を舞台に20世紀の戦争のダイナミズムをかたどる超大作で、一読して打ちのめされました。満洲の奥深くを高密度で描いていることに衝撃を受けましたし、戦争小説の可能性を切り拓いている姿にも感銘を受けました。そもそもなぜ今回、満洲を描こうと思ったのでしょうか?

小川 最初に満洲というテーマを提案してくれたのは、「小説すばる」で当時担当してくれていた編集者の方です。彼が連載に向けていくつか提案してくれたトピックのなかに〈大同都邑計画〉がありました。

大同都邑計画とは、駒沢公園を設計した建築家の高山英華らが戦前に関わった、満洲に当時最先端の都市を一から作り上げるというプロジェクトのことです。興味を持って調べていくうちに、この素材は小説になると思いました。

満洲が人工的な国家だというのは、学生時代に世界史をほとんど勉強しなかった僕でも知っていました。人工的な国家のなかに、人工的な都市を作る。都市を作るためにはもちろん建築が必要です。少し飛躍があるように聞こえるかもしれませんが、そう考えたときに、満洲を作るという計画と、小説を書くという営為が僕のなかで繋がったように感じました。というのも、僕は日頃から小説を書くことは建築と非常に近いものだと考えていて。このテーマなら、ひとつ長い小説を書くことができると思いました。

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