今年のカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞とエキュメニカル審査員賞を受賞した、是枝裕和監督の韓国映画『ベイビー・ブローカー』が6月24日に公開される。さまざまな事情で育てられない赤ちゃんを匿名で預け入れることのできる窓口である「赤ちゃんポスト」と、そこに預けられた赤ちゃんを盗んで売る「ベイビー・ブローカー」をテーマにした本作。

是枝監督はなぜ韓国を舞台にこのテーマを選んだのか。そして、本作にどんな思いを込めたのか。カンヌから帰国したばかりの是枝監督に話を聞いた。

『ベイビー・ブローカー』ストーリー
クリーニング店を営みながらも借金に追われるサンヒョン(ソン・ガンホ)と<赤ちゃんポスト>がある施設で働く児童養護施設出身のドンス(カン・ドンウォン)。ある雨の夜、2人は若い女性ソヨン(イ・ジウン)が「赤ちゃんポスト」に預けた赤ちゃんをこっそりと連れ去る。彼らの裏稼業は「ベイビー・ブローカー」だ。翌日、赤ちゃんを取り戻そうと戻って来たソヨンは、サンヒョンとドンスが赤ちゃんを連れ去ったことを知り、成り行きから2人と共に赤ちゃんを養子にしてくれる夫婦を探しにオンボロのバンに乗って旅に出掛けるが、なぜかそこに児童養護施設に住む子どもヘジンも加わり……。そんな彼らを逮捕しようと刑事のスジン(ペ・ドゥナ)と刑事のイ(イ・ジュヨン)が後を追う。
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親を知らない子どもたちの「切実な問い」

是枝監督が赤ちゃんポストに興味を持つようになったのは、子どもの取り違えを描いた『そして父になる』(2013)を制作する際に赤ちゃんポストや養子縁組といった問題を知ったのがきっかけだったという。自身が父親になったことでさらに興味を持つようになり、その後、韓国の赤ちゃんポストの高い利用件数を知り、本作の構想を思いついた。

『ベイビー・ブローカー』より

映画の公式資料(2022年3月時点の情報をもとにしている)によると、赤ちゃんポストの発祥はドイツで、全国100ヶ所ほどに存在する窓口に毎年0〜数名ほど預けられているという(ちなみに、2012年のBBCの報道によると、赤ちゃんポストはヨーロッパ全土で約200存在するという)。日本は2007年に熊本慈恵病院によって設置された「こうのとりのゆりかご」のみで、2007年から2020年の13年間で累計157人が預け入れられ、2020年度は4人だった。

しかし韓国は、全国3ヶ所ある窓口(うち2ヶ所はキリスト教系教会、1ヶ所は仏教の寺)に、2009年から2019年の10年の間に1,802人もの赤ちゃんが預けられているという。特に2013年以降は当初100人未満だったのが、毎年200名を超えるほど増加している。

この背景には、「2012年特例法(入養特例法改正)」がある。2012年より前は出生届なしで養子に出せたのが、特例法以降は子どもの出自を知る権利を守るために、実母は出生届を役所に提出しなければいけなくなったのだ。これにより、身元がばれることを恐れた妊婦は、中絶や養子に託すこともできずに、赤ちゃんポストへ赤ちゃんを預け入れるようになったと考えられている。