核開発外交を加速させる北朝鮮初の女性外相・崔善姫(チェ・ソンヒ)の正体

北朝鮮超エリート社会の実態を垣間見る

北朝鮮は、6月10日まで平壌で開催された朝鮮労働党中央委員会総会で、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務第1次官の外相起用を発表した。

北朝鮮で初めての女性外相の誕生だ。米朝枠組み合意(1994年)や6者協議(2003~2007年)などで通訳として活躍した人物で、上司を差し置いた発言や立ち居振る舞いから「マダム・チェ」「謎の通訳」などと呼ばれた。金正恩党総書記が公式の場に現れた直後の2010年10月、外務省副局長に抜擢され、その後も局長(2016年)、次官(18年)、第1次官(19年)と出世の階段を駆け上がった。

北朝鮮外務省は総員1500人だが、財務や通信などの支援部署を除いた純粋な外交官は500人程度とされる。そのなかで、女性外交官は1割程度しかいない。毎年入省する外交官の7割が女性という韓国とは対照的だ。そんな「男社会」の北朝鮮外務省で、なぜ、崔善姫氏は順調な立身出世を遂げたのか?

「姫を支えてきた4人の男たち」と海外留学

崔善姫氏の養父は、金正日(キム・ジョンイル)時代に首相を務めた崔永林(チェ・ヨンリム)氏だ。当時、抗日パルチザン活動や朝鮮戦争で亡くなった人々の子女を、党幹部が引き取って育てるよう、金日成(キム・イルソン)主席が奨励した。崔善姫氏は1964年生まれで、祖父か祖母が戦争で亡くなった家系だとみられている。崔氏は党経済部門幹部に昇進した実兄とともに、崔永林氏によって育てられたという。

崔永林氏は、崔善姫氏がエリートコースを歩くことを大いに助けた「第1の恩人」だ。その象徴が北京やマルタへの留学だった。崔善姫氏はこの養父の力で、北朝鮮高位幹部の子どもが集まる南山高級中学校や平壌外国語大学で学んだ。親しい友人は、金日成・金正日両氏の側近として活躍した呉振宇(オ・ジヌ)人民武力相や許(ホ)ダム外相の娘たちだった。

マルタ大学 Photo by Fishman/ullstein bild via Getty Images
 

ある日、呉氏が固定メンバーだった金正日氏主催の酒パーティーで、子どもの教育が話題になった。そこで、呉氏と許氏の娘2人の北京留学が決まった。その話を聞いた崔善姫氏は養父に頼み、自分も北京留学組に加えてもらったという。その後、3人は地中海に浮かぶ保養地、マルタにも留学した。これは呉氏や許氏の夫人らの「観光旅行」も兼ねた特例措置だったという。平壌外国語大学には当時、英米仏独日中西アラビアの計8語学科があったが、英語圏の留学先では費用の安いタンザニアなどが選ばれていたからだ。

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