強打者の胸元を抉る「カミソリシュート」
デッドボールもいとわず、対峙する打者の胸元を高速で抉る。プロ野球の球種の中でも、「シュート」は、強打者に真っ向勝負を挑む男たちにとって、最高の「魔球」の一つと言えるだろう。
では、その中で最もファンや打者に鮮烈な印象を与えるシュートを投じたピッチャーは、誰だろうか。本誌は、数々の名投手と対戦したプロ野球OB達に話を聞いた。
まず口火を切ったのは、読売巨人軍のV9戦士、柴田勲氏だ。

「大洋ホエールズにいた平松政次の『カミソリシュート』は、狙っていても打てなかった。曲がり幅とキレがあまりにすごいものだから、最初から捨てていましたね。あの長嶋茂雄さんでさえ、大の苦手にしていたくらいです。『打てないから振らない』と思わせられたのは、あの球だけです」
高木豊氏(元横浜・日本ハム)は、平松の言葉に衝撃を受けたという。
「平松さんに話を聞いたら、『真ん中を目がけて投げたら、右打者の胸元に食い込むような丁度いいコースに曲がる』と話していました。どれだけ異常な曲がり方をしていたのか、と思いましたね」