2022.07.04
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楠木正成は「リモートワーク推進派」? 今こそ読むべき名著『太平記』の奥深い世界

日本最大の歴史物語への手引き
毎月、古今東西の「名著」を取り上げてその奥深い世界を解説してくれる番組『100分de名著』。7月4日から4回にわたって取り上げられるのは、日本最大の歴史物語『太平記』だ。

今から約700年前、14世紀の凄絶な合戦を扱った名著だが、講師役で能楽師の安田登氏と番組プロデューサーの秋満吉彦氏は「当時と現在は時代としてよく似ており、だからこそいま読んでほしい」と話す。その真意について、じっくりとお話を伺った。
能楽師の安田登氏(左)と『100分de名著』の秋満吉彦プロデューサー(撮影:現代ビジネス編集部)
 

今こそ読んでほしい理由

――そもそも『太平記』とは、どのような名著なのでしょうか?

安田:一言で言えば、全40巻という非常に長大な軍記物語です。鎌倉幕府の終盤から足利義満が室町幕府の第三代将軍になるまでの約半世紀、天皇が2人同時に存在した「南北朝時代」という日本史上でも珍しい時代を主に扱っています。

天皇が2人いて正統性を争っていた当時の日本は、言わば2つの大きなエネルギーがぶつかり合っていた時代です。やがて一つにまとまっていくエネルギーの渦の中で、楠木正成や足利尊氏といった登場人物たちが戦いに巻き込まれていくというお話です。

――軍記物語というと、最近アニメ化もされた『平家物語』が思い浮かびます。

安田:実は『太平記』の最初の12巻は、『平家物語』と同じ構造なんです。『平家物語』は平清盛の死をきっかけに平家が没落していく様子を描いていますが、『太平記』の序盤では前時代の価値観を持っていた武士と新しい価値観を持っていた武士との交代が起こり、やがて鎌倉幕府と北条氏が最期を迎えます。

ただし両者を比較すると、『太平記』は登場人物が本当によく死ぬ。特に自害する人が多いですね。『平家物語』だと自ら命を絶つシーンは最後の壇ノ浦の戦いまではまれで、逆に自害すると珍しく取り上げられますが、『太平記』の人々は次々と自害していく。

――まさに合戦を題材にした軍記物語らしい特徴です。一方で、両者の共通点はどこにあるのでしょう?

安田:目に見えない“蓄積”がやがて大きな変化を引き起こす、漸進跳躍型の「あわいの時代」をどちらも描いていることでしょう。ふたつの価値観が重なり合う時期を、私は「あわい」の時代と呼んでいますが、南北朝時代は、天皇的なものと武士、つまり対照的な「公」と「武」が重なり合っていた「あわい」の時代で、両者が緊張しながら少しずつ時代が進んでいきました。

物語が始まってから約60年後、足利義満が公武を一つにまとめて南北朝も合一して大団円を迎え、ようやく新しい時代が本格的に始まるわけです。ギロチンで時代が大きく動いたフランス革命と比較すると、その違いがイメージしやすいのではないでしょうか。

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