自分の恨み辛みからではなく、出版社への感謝をベースに課題を解決する

「印税最大50%」に多くの共感(後編)
街から書店が消えていく。それほどの出版不況の中、あえて出版で起業したのが田中泰延(ひろのぶ)氏だ。「ひろのぶと株式会社」は「印税率で出版業界を変えたい」を目標に掲げる。通常、本の印税率は価格の1割だが、初版印税を2割とし、10万部以上では3割、50万部以上は4割、100万部以上は5割に上げていく「累進印税」を導入し、業界の常識を打ち破ろうとする。2022年6月、株式投資クラウドファンディングのファンディーノで株主を募集したところ、IPO(新規上場)を予定していない株であるにもかかわらず、わずか27分で募集上限額いっぱいの4000万円が集まった。記録的な速さに注目度の高さがあらわれているが、それは田中氏がwebコラムやベストセラー著書で培ってきた高い知名度だけが理由ではないはずだ。では何が異例の事態を引き起こしたのだろうか。株主募集にあたり相談役を担った新規事業家で『起業は意志が10割』(講談社刊)の著者・守屋実氏との対談で、その理由を探る。今回はその後編だ。→前編はこちら

「自分のことだけ話し続ける人」の残念な結末

田中 意志の重要性という観点で振り返ると、私が恨み辛みから会社を立ち上げたいと思ったわけではないということも大事なポイントだったかもしれません。著書『読みたいことを、書けばいい。』(ダイヤモンド社)は売れたし、多くの人に声をかけてもらえるようにもなりました。いい出会いにもつながりましたし、編集者である今野良介さんとも意気投合して楽しい体験を共有できました。でも、一点だけ改良するとしたら、印税の部分だと思ったんです。だから、感謝がベースにあって、その上でこの課題だけはなんとかしたいという思いがあります。

守屋 そこは大事なポイントですよね。「自分のために」と関心が本人だけに向いている人だと、なかなか共感を持つことは難しいです。そうではなく、「産業のため」「社会のため」「お客様のため」など、何か対象物があってこそ、共感が生まれていくのだと思います。例えば、「俺、金持ちになりたいんだけれど」と言われても、それに対して他人は頑張りにくいですよね。
田中さんの著書『会って、話すこと。』(ダイヤモンド社)にも、いつでも「自分」が主語になる人のコミュニケーションについて指摘していますよね?

田中 はい、最悪のコミュニケーションは「自分のことだけ話し続けること」ですよね。例えば、AさんとBさんとCさんが話をしていて、「コロナも終わりそうなのでハワイに行って、楽しかったんだ!」とAさんがいいボールを転がしてるのに、Cさんが「あーハワイ行ったことないわ。興味もないんだよね」などと言い出したとします。Cさんは、ハワイは行ったことないし、じつは羨ましい気持ちもあるから、自分の基準で話を終わらせようとするんです。ハワイの話を聞こうと身を乗り出していたBさんは、いいとばっちり。3人の中で話は全く発展しない。貴重なコロナ以降のハワイの話や景色などについて味わう機会を失ってしまいます。

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事業の目標についても、「こんなふうに世の中変わったらいいね」や「助かる人がこれだけ増えるといいね」など、ここにはない何かをみんなでイメージして、ワクワクしながら話せる場が一番楽しいはずです。それを自分を主語にして、せっかくの話をぶった斬るべきではないと思います。

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