「ゲームはもうやめて宿題したら?」「わかってるって!」
「ゲームばかりしてないで、いいかげん勉強しなさい!」「うるさいなあ」
これは今、子どもがいる多くの家庭で行われている攻防なのではないでしょうか。なぜ子どもはゲームに夢中になってしまうのか? その情熱を少しでも勉強に向かわせることはできないのか? 世界的に人気のゲーム「マインクラフト」を小学校の授業に取り入れて、「教育界のノーベル賞」と呼ばれる「グローバル・ティーチャー賞」トップ10に選出された経歴を持つ正頭英和先生に聞いてみました。

撮影/山本遼
正頭英和(しょうとうひでかず)立命館小学校ICT教育部長、主幹教諭。1983年大阪府生まれ。関西外国語大学外国語学部卒業。関西大学大学院修了(外国語教育学修士)。2019年、「教育界のノーベル賞」と呼ばれる「Global Teacher Prize(グローバル・ティーチャー賞)」トップ10に、世界約150ヵ国・約3万人の中から、日本人小学校教員初で選出される。「英語」に加えて「ICT科」の授業を担当し、小学校での指導に留まらず、これからの教育のあり方をテーマにした講演や教材開発など多方面で活躍中。著書に『子どもの未来が変わる英語の教科書』他。「教育×ゲーム」をテーマに新しい教育を研究・制作するチーム・クロスエデュケーションラボの一員として『漢字ハンターズドリル』を上梓したばかり。
 

「覚えること」の価値が落ちている

子どもたちが勉強よりもゲームのほうに熱中してしまうのは、ムリもないことです。その理由のひとつは「達成感」にあります。学校の勉強は「宿題を終わらせる」とか「テストでいい点を取る」といった、入り口で苦手意識を突破したり、ある程度の期間を経たりしないと達成感を得づらいものが多い。一方で、ゲームの設計は、そもそも「いかに定期的に達成感を得させるか」が念頭に置かれています。数分おき、数十分おきにプレイヤーをほめ、成長を感じさせる仕掛けが施されているわけです。単純な達成感の得やすさで比較してしまうと、楽しさが周到にデザインされているゲームの方に軍配が上がるのはやむを得ないところです。

子どもたちと日々接するなかで感じるのは今、彼らが何かひとつのことに達成感を得るまでのモチベーションの維持が極端に難しい時代になっている、ということです。昔は「ノートに英単語を100回書いて覚える」「徳川15代将軍をひたすら諳んじて覚える」といったことが当たり前に行われていました。「頭がいい」=「いろいろ知っている」ということでしたし、いろいろ知っていることで「スゴい!」と称賛されました。

けれど今、スマホで検索すれば1秒で答えがわかる世界を生きる子どもたちにとって、「覚えること」の価値は下がりきっています。さらに「AができなければBをすればいい」と、選択肢が溢れているこの時代、「価値がない困難に耐える」というのは、彼らの心にまったくフィットしないのです。

かといって、知識や勉強が不要になったのか、というとそうではない。検索が当たり前の時代の勉強の重要性は、インプットよりもアウトプット、暗記よりも暗記した知識をいかに活用するかにシフトしていますが、インプットがゼロではアウトプットはできません。覚えた知識が必要になる瞬間は必ずあります。「徳川家の将軍は15人いた」という知識がなければ、「徳川15代将軍は?」という検索にも至らないわけですから。