パイロットは絶滅するか
5月27日に日米同時公開された映画『トップガン マーヴェリック』。前作『トップガン』から36年ぶりの続編というだけでなく、CG全盛のなか、米海軍が全面協力して実際の俳優たちがF18に乗り、強烈なGをリアル体験していることでも話題となっている。

その劇中、昇進を拒み現場にこだわる戦闘機パイロットのマーヴェリック(トム・クルーズ)に向かい、エド・ハリス演じる海軍少将がこう口にする。
「君たちのようなパイロットは絶滅する」
少将は、有人戦闘機開発の予算は無人機に回す、とも公言しているのだ。
このモチーフは、まさに現実の世界とリンクしている。ウクライナの戦場では、ドローンが戦術的に重要な役割を果たし、脚光を浴びているからだ。
はたして、「パイロットは絶滅する」のか。無人戦闘機が人類の未来にもたらすものは何か。世界の軍事事情に精通する二人が語りあった。
高橋杉雄・防衛政策研究室長(以下、高橋) じつは『トップガン2』というのは、アメリカの国防戦略の専門家の間ではブラックジョークでした。
前作『トップガン』が公開されたのは冷戦期の'86年。しかし冷戦終了後、アメリカの軍事予算が削られます。そのうちに戦闘機が古くなり、ロシアや中国の新型戦闘機が性能で上回ることが懸念されました。アメリカでも新型機F35に切り替えることが予定されていましたが、開発スケジュールが大きく遅れた。
さらにF35は冷戦期の欧州で戦うことを前提にして設計されていたので、冷戦後の仮想敵国・中国と戦う上では航続距離や搭載量が十分ではないと批判され、「プロジェクト自体を中止して無人技術を使った戦闘機を新たに開発すべき」との主張も現れます。しかし、国際共同開発であったF35は、アメリカだけの考えで中止にはできない。
こうしたことが重なり、2010年代前半になっても西側は『トップガン』の時代と戦闘機がたいして変わっていなかったのです。つまり、「今、『トップガン』の続編を撮ったら、また前と同じ戦闘機でやるんだぜ」という意味でのブラックジョークです。
また、冷戦が終結したため、まさか戦闘機VS.戦闘機(ドッグファイト)など、今後の戦争ではもうないだろうと考え、米海軍は、戦闘機を『トップガン』時代のF14から、対地攻撃にも使える近代化されたF18(スーパーホーネット)に転換します。
しかしその後、中国の軍事力が近代化した。それを受けて「我々は失敗した。航続距離の長いF14を退役させるべきではなかった」という意見も米海軍の中では現れました。
小野田治・元航空自衛隊空将(以下、小野田)「ドッグファイト」とは、空戦において相手を撃墜するために敵味方双方が背後を取ろうとする動きからきています。
第二次大戦の頃の空戦では、相手を撃墜するために機銃を使っていました。機銃の射程距離はせいぜい500mです。戦後、赤外線追尾型のミサイルができましたが、射程は3000~5000mで、これも相手を目視して背後について撃たないと命中しません。
しかしその後、レーダー誘導ミサイルが登場し、現在では、はるか100km以上先の敵機をレーダーで発見して撃墜することが可能になっています。こうなると、パイロットの腕というより、どれだけ高性能のレーダーで、より射程の長いミサイルを積んでいるかということが空戦の勝敗を決めるようになりました。
ただ、現実はそうであっても「短距離の空中戦がなくなるわけじゃないだろう」と考えるパイロットが多いのは確かです。