世界的写真家・田原桂一と、梨園の妻であり一児の母であった博子の「不倫の恋」を実名で描いた小説『奇跡』(林真理子著)が話題だ。巷の話題をたちまちさらい、発売1ヵ月で10万部を突破。現在でも編集部には毎日のように読者ハガキが届いているという。不倫がタブー視されている時代に、子どもも歌舞伎役者にも関わらず、なぜあえて実名で作品を出したのか。

当事者であり、この小説の登場人物でもある田原博子さんが2022年6月6日、田原桂一さんの5回目の命日を迎えた直後、初めてメディアの取材に答えた。

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10年に及ぶ不倫を林真理子さんが執筆した経緯

場所は閑静な住宅街。チャイムを鳴らすと、白いサマードレスに身を包んだ田原博子さんが現れた。笑顔で気さくに「どうぞ」と招き入れ、リビングに通してくれる。そこには写真家・田原桂一さんの作品や自分で活けた花に囲まれたサロンが広がっていた。

撮影/森清

『奇跡』の帯には、「男は世界的な写真家 女は梨園の妻」、「真実を語ることは、これまでずっと封印してきました」と書かれている。センセーショナルな不倫小説だと思って読み始めた人は多いだろう。しかしお互いの愛の深さに「心打たれ、気が付けば涙が出ていた」と読者からの声も集まっているという。

――そういう方は多いみたいです。編集の方に伺ったのですが、たくさんいただいた読者ハガキのなかには、19歳の男性から届いたものもあるそうです。そこには「いつか、これほど人を愛してみたい」とあったとか。また、80代の女性から「勇気と覚悟を抱いてよくぞ本として残してくれた」という感想もいただきました。これには、本当に感激しました。私は田原桂一に出会って、愛し愛されること、桂一さんのことも、息子のことも100%愛し抜くことで「愛の本質」を知りました。

田原桂一氏との10年に及ぶ不倫を、なぜ今、直木賞作家の林真理子さんが執筆するに至ったのだろうか。

――もともと、息子の幼稚園時代のママ友で、20年近いお付き合いがありました。学校でお会いすることはもちろんありましたが、歌舞伎座などにいつもお運びいただいたり、共通の友人もたくさんおり、親しくさせていただいてまいりました。
数年前から、桂一さんと私が家族になっていった経緯をお話しするようになり、「田原さんと博子さんの小説を書きたい」と折に触れて言ってくださっていたのです。
そんなとき、2020年にコロナ禍に入り、多くの人が命を失いました。生命に限りがあることに直面し、生と死が隣り合わせだと感じる毎日を送るうちに、桂一さんと私のことを林さんに書いていただこうという気持ちになったんです。
ある種の野生のカンで「今だ」と思ったことも大きいと思います。

田原桂一さんと博子さん