化石を手がかりに、科学技術を駆使して、古生物のさまざまな謎に迫る「古生物学」。それは、まさに"良質なミステリー"とも言える学問ですが、中でもその進化と滅亡、あるいは現在へに至る道程、「生命の歴史」は、とりわけ壮大なテーマの1つです。
古生物をめぐる歴史については、とくにここ十数年で多くの新知見が得られています。『カラー図説 生命の大進化40億年史 古生代編』では、そうした新知見をも視野に入れて詳しく解説されています。今回は、その中から、生命の誕生と原初の生命の姿についてのトピックをご紹介しましょう。
岩石に記録される生命の痕跡
地球は、海に覆われた惑星だ。当初の地球には陸地はなかったか、あるいは、せいぜい「島」レベルだったと考えられている。
そんな海で、最初の生命は生まれたらしい。
ただし、最初の生命が、どのような姿で、どのような種類だったのかは、よくわかっていない。
そもそも現在の地球で、知られている限りの最も古い岩石は、約40億3000万年前のものだ。それよりも古い時代の岩石は、現在の地球表層には残っていない(正確には、「発見されて」いない)。地球表層はつねに雨風による岩石の破壊が続いているし、海洋プレートに乗った岩石は、時間の経過とともに地球内部へと沈み込んでいくからだ。
その最古の岩石は、カナダ北西部のアカスタで、1983年に発見された。
この岩石には、生命活動はいっさい記録されていない。ただし、これは「約40億3000万年前の地球に生命がいなかった」ことを示すのではなく、この岩石が「当時の生命活動が記録されることに適した岩石」ではないことによる。

最初の生命の姿とは?
2017年、東京大学大学院の田代貴志たちは、カナダ北東部のラブラドル地域から採集した約39億5000万年前の岩石に、炭素質の微粒子を確認したことを報告した。そして、田代たちの分析によって、この微粒子が生物起源であることが明らかにされた。
つまり、約39億5000万年前の海には、すでに生命がいたらしい。
しかし、ラブラドル地域の岩石に残されていたのは、あくまでも"生物起源の微粒子"だ。それは、"生命が存在した証拠"ではあるけれども、生物の遺骸である「化石」ではない。そのため、約39億5000万年前の海に生息していた生物の"姿"は、謎だ。
最初の生命は、どのような姿で、どのような種類の生き物だったのか?
この謎をめぐって、多くの研究者が挑戦を続けている。
田代たちが論文を発表した2017年、ロンドン・ナノテクノロジー・センター(イギリス)のマシュー・S・ドッドたちは、カナダ北東部のケベックから採集された約37億7000万年前の岩石から、管状の微小構造物を報告している。ドッドたちの分析によると、この構造は、現在の熱水噴出孔のまわりにいる微生物のものとよく似ているという。

熱水噴出孔は、生命誕生の場所の候補とされている。地球内部から噴出する水素と二酸化炭素、そしてそのまわりにある鉱物から、生命の材料である有機物を合成できるからだ。そんな熱水噴出孔のまわりにいる微生物に近い構造をしていることから、ドッドたちは、これが初期生命のものと判断した。
生物がつくったものの「化石」
生物本体ではなくても、生物がつくったものということならば、「化石」として扱われる。
ただし、この微小構造物の取り扱いには、異論もある。本当に化石なのかどうか、また、化石だとしても、約37億7000万年前よりも新しいものなのではないか、という指摘もある。
別の視点で見れば、2016年にウーロンゴン大学(オーストラリア)のアレン・P・ナットマンたちが、グリーンランドのイスア地域から、約37億年前の「ストロマトライト」を報告している。ストロマトライトそのものは、岩石である(記事冒頭の写真参照)。
ただし、シアノバクテリア(藍藻類)がつくる岩石だ。そのため、ストロマトライトがあるということは、間接的に、そこにシアノバクテリアがいた証拠となる。シアノバクテリアは、光合成をおこなう生物である。その存在は、酸素の生産がおこなわれていたことを示唆する。

もっとも、この岩石についても、本当にストロマトライトなのかどうか、疑問視する指摘もある。