大スクープの予感
「——例のA子、〇〇事務所のB男とつき合っているらしいよ」
AとB——その場にいた編集部の全員が驚いた取り合わせだった。A子といえば、テレビドラマでいきなりヒロインに抜擢され、ブレイクした新人アイドルだ。今年はドラマに初主演、歌手デビューも果たしたという注目株。
そしてB男はと言えば、かつてトップアイドルとして活躍し、現在でも俳優として活躍し続けている大物タレントだ。彼は僕と同年代だから、A子とは十数歳の年の差があるはず。30過ぎの大物タレントと10代のアイドル。しかも、二人とも世間に知られた存在——。
もし、この話が本当だったら、大スクープになるに違いない。
だが、事はそう簡単には運ばない。
「前にB男を張り込んだ記者に聞いたんだけど、彼は毎晩仕事の帰りにジョギングがてら、自宅の周りに怪しい車や人間がいないかチェックしてるらしいよ」
先輩記者の一人が難しい顔をして言った。
彼のような男性アイドルは日頃から常軌を逸した一部のファンに追いかけ回されることが多いため、ただでさえカンがいいのが多い。その中でもB男は特に厄介なのだという。実際、B男が過去にスキャンダルを撮られたという話は、僕も当時聞いたことがなかった。
B男の自宅マンションを張り込み始めた初日。僕たちは早速、彼の凄まじさを知ることになった。後輩記者がいきなりB男に"直撃"されてしまったのだ。
僕はB男のマンションのエントランスが見える場所に、後輩記者はマンションから出て角を曲がった位置に、それぞれ車を配置していた。僕の車はまだしも、角の向こうにいる後輩の車が気づかれるはずがない。しかし、B男は真っすぐに後輩の車に近づいて来ると、窓をノックして次のように言った。
「何やってるの? 張り込んでるの?」
後輩記者いわく、テレビCMさながらの爽やかな笑顔だったという。
「反対側にいる車も仲間でしょ?」
B男は僕の存在もしっかりチェックしていたのだ。彼がこちらを見た様子はまったくなかったのに——。
これは手強い。