「左派」はなぜ存在感を失ったのか?――過激化した左翼の功罪

思想の免疫を身につける
川口大三郎かわぐちだいざぶろう事件」や三菱重工爆破事件、社会党の凋落にソ連の崩壊——あさま山荘事件以降の左翼は、どのように弱体化し、存在感を失っていったのか?
池上彰、佐藤優両氏が、1972年以降の左翼の歴史を語り合った現代新書の最新刊『漂流 日本左翼史 理想なき左派の混迷 1972-2022』から、左翼漂流の歴史を概観した序章をお届けします!

「左翼史」を語る重要性がますます高まった

池上 日本の戦後史を今まで語られてこなかった左翼の視点から捉え、忘れられた歴史を浮き彫りにする「左翼史」対談は、この本でいよいよ三巻目です。

佐藤 2020年から続くコロナ禍により格差や貧困が世界中で深刻化し、社会の分断に拍車をかけています。さらに、2022年2月に起きたロシアによるウクライナ侵攻で、われわれは第三次世界大戦の危機に直面しています。世界はいま転換点に立っているのです。

格差や貧困、戦争の危機。私たちが直面しているこれらの問題は、まさに左翼が掲げてきた論点そのものです。激動の時代を生き抜くためには、左翼の功罪を歴史的に検証して、危機を乗り越えるための「左翼の思考」から学ばなければならない──。それが、「左翼史」シリーズで一貫して掲げている問題意識でした。

 

池上 「左翼史」対談を始めたのは2020年の後半でしたが、それからわずか二年のうちに、刻一刻と世界が激動の渦に巻き込まれていくのを肌で感じます。

ウクライナ侵攻のように極めて20世紀的な侵略戦争がこの時代に起きたことに驚いた人も多かったでしょう。アメリカの作家マーク・トウェインの言葉として知られる「歴史は繰り返さないが韻を踏む」という言葉を思い出します。「左翼の思考」を検証するというのは、激動の時代をいかに乗り越えればよいかの知恵を歴史から謙虚に学ぶということなのです。

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佐藤 社会の矛盾が積もり重なると、人々の不満が噴出する。それらの不満がイデオロギーにからられ、暴力的に発露してしまうと大変危険です。いまは世界中で、排外主義的なナショナリズムやテロリズムに対する警戒が必要です。

戦後の日本では、マルクス主義が人々の不満を吸収して社会変革を夢見るイデオロギーとして、広汎な支持を集めました。

池上 第一巻『真説 日本左翼史』(以下、『真説』)では、戦後から1960年の安保闘争の頃に照準を合わせて、日本共産党と社会党という二大左派政党の盛衰を概観しましたね。当時は、いまの若者たちには想像もできないほど左派の思想と運動が勢いを持っていた時代でした。

佐藤 一方で、第二巻『激動 日本左翼史』(以下、『激動』)で強調したように、既存左翼政党への不満から生まれた新左翼が、60年代末に内ゲバ(セクト間の闘争)を繰り返して人殺しを正当化するという残忍な事態に陥りました。高らかな理想から殺人へと転倒してしまう思想の恐ろしさを知って欲しいというのも、「左翼史」対談で伝えたい重要なメッセージです。

ウクライナ戦争を米欧や日本は民主主義対権威主義の戦いと位置づけています。ロシアはウクライナのナチス主義と戦っていると主張しています。これはイデオロギーの時代が再び到来していることを示しています。その際、左翼の功罪を学んでおくことで思想の免疫が身につく。危機の時代に思想に踊らされない真の教養を、皆さんには身につけて欲しいと思います。

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