でも、地方にはこんなに元気な政治家がいる。
泉房穂明石市長。改革が次々と成功し、いまや周辺自治体に「明石市に移り住みたい」という若い世代が激増している。
その泉市長を当選させたのは、政党の力でも特定団体の力でもない。市長を支持する市民ひとりひとり、一票一票の積み重ねが、泉市政を生んだのだ。
『朝日新聞政治部』で話題の政治ジャーナリスト鮫島浩氏が、泉市長にズバズバ切り込む対談の第3回。参議院選挙投票日当日だからこそ必読です。
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世界中の良い政策をパクりまくる
鮫島 6月3日に厚生労働省が発表した人口動態統計によると、昨年の出生数は81万1604人で、6年連続で過去最少を更新しました。
少子化がますます深刻化するなかで、明石市は次々と少子化施策を実施し、成果を上げています。9年連続で人口が増え、2012年度から2020年度にかけての8年間で、32億円の税収増。
泉改革は大成功、と言えると思いますが、さまざまな施策は泉さんがトップダウンで決めているのでしょうか?

泉 私はクリエイターでも魔法使いでもありませんから、うーんと唸って、良い施策を思いつけるわけではありません。
基本的には次の3パターンです。1つ目は、他の自治体でやっていて、上手くいっていることをパクる。2つ目は、海外でやって上手くいってることを持ってきて、明石市に合うようにアレンジする。3つ目は、市民の声です。困ってる人の声を聞いて、それを解消する制度をつくる。
鮫島 なるほど。周りをよく観察して、いいものを取り入れていく。
泉 はい。たとえばおむつの宅配サービスは、滋賀県の東近江市がやっていたのをパクりました。明石市の里親支援が評価されて、兵庫県代表として表彰される機会があったのですが、隣が東近江市だったんです。
政策の話になって、おむつの宅配をやってると聞いてね。
「そんないいことやってるんですか?」てな感じで、どうやって実施しているかまで、その場で聞かせてもらった。
もうその時点で明石市でやろうと決めていました。
でも単なるパクリだと面白くないから、うちは0歳児の赤ちゃんがいる家庭に、おむつを毎月無料で届けると同時に、孤立防止のために子育て経験のある「見守り支援員」が相談に乗る、というサービスをくっ付けた。
鮫島 アレンジしたわけですね。
泉 ええ。中学校の給食無償化は、韓国のソウル市がやってると知り参考にしました。大都市のソウルでできるんだから、明石市ができないはずがない、と。
明石市が実施したら、大阪市が追いかけてきましたよ。
今年4月からは、市内の小・中・高・養護学校のトイレに生理用ナプキンを常備して、自由に使ってもらっています。これは、ニュージーランドからパクりました(笑)。
鮫島 世界中から良い施策を引っ張ってくるわけですね。
泉 海外直輸入のブルーチーズみたいなもんですわ(笑)。
良い政策を探して、世界中の動きを見てます。パクりたいのを見つけたら、市長として案までは作る。あとは議会が通してくれるかなんですけど……、意外と通るもんです(笑)。こういうこと言って通らなくなったらまずいけど。
明石市は早いほうだと思いますが、それでも施策を実際に形にするまでに10年近くかかることもあります。最初はしんどかったですけど、何とか多くの市民に賛同して頂けるようになって、「明石で、そんなことやってんの?」と全国的にも知られるようになったのです。