欧州までも対中軍事行動に参入
そして2021年11月には、QUADの形成に触発された形で、もう1つの対中国の国際連携が出来上がった。アメリカ、イギリス、オーストラリアの3ヵ国による「AUKUS」という枠組みである。AUKUSは主に、南シナ海を中国の膨張から守ることを使命としている。インド太平洋地域全体におけるQUADとAUKUSのさらなる連携も今後期待できるのであろう。
実は2021年6月に、もう1つ重要な国際会議がイギリスで開かれた。バイデン米大統領やジョンソン英首相らが参加した、NATO首脳会議である。
会議の共同声明ではNATOの歴史上初めて、中国のことを名指して批判した上で、「中国の野望と行動はルールに基づくわれわれ同盟国にとっての体制上の挑戦」であると訴えた。つまりNATOという軍事同盟はここで事実上、中国のことを脅威だと認定して矛先を習主席に向けることになった。
そして2021年の1年間を通して、NATOの加盟国であるフランスとイギリス・ドイツの3ヵ国は艦隊をインド太平洋地域に派遣してきて、米海軍や日本の海上自衛隊との共同訓練も行った。
イギリスに至っては、最新鋭の空母を中心とした空母打撃群の派遣であって、それは明らかに、かつての海の覇主であったイギリスはいざとなる時、インド太平洋の紛争に首を突っ込んできて中国と一戦を交えることも辞さないという強い意志の表明であろう。
そして2022年6月末にドイツで開かれたNATO首脳会議は、前述のQUADの参加国である日本とオーストラリアの首脳を招いた上で対中国問題を議論したが、前回の首脳会議と同様、中国のことを「国際秩序に対する構造的挑戦」だと位置付けた。
日本とオーストラリアの首脳がNATOの首脳会議に招かれたことの意義は極めて大きい。2021年の仏独英海軍のアジア派遣の延長線において、NATOはもはや欧州を守るだけのNATOではなくなって、まさにインド太平洋地域における中国包囲網の参加者となった。
このようにして安倍首相退陣後の数年間、NATOの加盟国をも含めた自由世界全体による中国包囲網はほぼ完全に出来上がってきたが、この流れを作り出した最大の功労者はまさに安倍元首相である。
彼の提唱した「自由と繁栄の弧」はインド太平洋地域で現実となっただけでなく、それがさらに欧州にまで拡大して行って、まさに地球の東西を巻き込んだ壮大なる国際連携の大輪として開花した。