原価400円のコロナワクチンが3000円に…「特許制度」はこのままでいいのか?
インセンティブと独占の境目を考えるグローバルな感染症とワクチン
2022年6月にジュネーブで開催された世界貿易機関(WTO)の閣僚会議で、新型コロナウイルス感染症のワクチンのことが重要議題として討論された。
WTO閣僚会議は、本来は隔年のはずだが、新型コロナの影響で開催できなかったため4年半ぶりの会合だという。
WTOと言えば、自由貿易を維持拡大させるために結成された機関だったが、それだけにとどまらず、世界で市場経済を推進する役割を果たしているグローバルな組織として知られる。
最近では、世界の多極化を背景として、各国の経済的思惑がぶつかり合って、議論がまとまらないことも多くなっている。
また、高所得国や国境を越えて活動する巨大な多国籍企業(トランスナショナル企業)の利益を守ることに偏っているとして、市民社会から批判されることも増えてきている。
そのためかつては、経済グローバル化の一方的な拡大に反対する市民運動のデモや抗議活動で、WTO閣僚会議の会場が取り囲まれることもあった。

そんな世界貿易に関する会議で、ワクチンが議論されている理由は、世界各国での特許権(知的所有権)制度が、WTOでの国際的な取り決め(TRIPS協定)に左右されるからだ。
具体的に懸念されているのは、ワクチンの特許権の保護によってワクチン価格が高止まりして、低中所得国でのワクチン接種が進まなくなることだ。
新型コロナは世界に拡大した感染症(パンデミック)であり、一部の裕福な国家の国民だけがワクチン接種を受けても、根本的な解決にはならないとされる。
世界のどこかに新型コロナウイルスの流行地域が残っていれば、そこで突然変異を起こして、再び世界に拡大しパンデミックになるリスクがあるからだ。
つまり、新型コロナの制圧にワクチン接種が重要だというならば、高所得国だけでなく低中所得国も含めて、グローバルにワクチン接種をすすめることは必須となる。
では、ワクチン価格に特許はどの程度関係しているのだろうか?