2022.07.16

「加速社会」とは何か? 私たちを追い立て、充足感を奪っているものの正体

いつも時間がなくて、どこか空疎

忙しいのに、空疎

いつも何かに追い立てられている、つねに時間がない、息をついているヒマもない——日々こうした思いを抱いて生活を送っている人は少なくないだろう。

私たちは、高度なテクノロジーによって、余りある時間を手にするはずであった。だが実際は、毎日何かに追われ、多忙すぎる日々を送っている。また、加速する時間の中で忙しさが増す一方、ふと我に返ると、自分も周囲も、何一つ進歩がないという事実に愕然とする。

私たちはどうして、これほど時間がなく、いつも様々なイベントに追い立てられており、にもかかわらず、どこか空疎な感覚を抱いているのか。

ドイツの社会理論において、大きな存在感を示してきた「批判理論」という分野がある。その批判理論の新世代を代表するハルトムート・ローザの『加速する社会―近代における時間構造の変容』(福村出版、2022年7月刊行)は、社会学の観点から、「加速」「加速社会」というキーワードを用いて、こうした疑問に答えようとする。

 

ローザは、本書と近刊の『共鳴する世界―世界関係の社会学』(新泉社)によって、現在、ヨーロッパにおける最も著名な社会学者の一人となっている。ドイツ批判理論と聞くと、難解な歴史哲学や規範理論を想像する読者もいるだろう。また加速ということから、深遠かつ高尚な「加速主義」と呼ばれる思想を連想する人もいるかもしれない。しかし、本書はあくまで私たちが経験する事実に立脚しながら、加速という現象の社会的メカニズムを解明しようとする。

本書の描く加速社会は、およそ次のようなものである。

近代社会では経済、社会構造、文化という三つの領域から加速推進力が生成し、それらが相互に強化し合いながら、自己駆動的な加速プロセスが発生する。しかし、この加速プロセスは、やがて臨界点を超え、近代社会の基本構造(個人主義や民主主義)自体を掘り崩していく。そして「超高速静止」、すなわち「本質的なものは何も変わらないにもかかわらず、そのままの状態に止まるものは何もない」というパラドクスが出現する。

また、あらゆるものが凄まじい勢いで加速するにもかかわらず、いやむしろ、加速するがゆえに、社会と文化の深層において、変化、進展、進歩、向上、発展がいっさい存在しない、社会の「硬直」が進行する。

こう書くと、やや抽象的に聞こえるかもしれない。より具体的に説明しよう。

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