あの日から2年目の夏――三浦春馬さんの三回忌を迎えた。いま私たちができることは、彼が生きた証・作品を大切に愛し続けることだろう。

その作品のひとつが、ミュージカル『キンキーブーツ』だ。三浦さんが演じた主人公のドラァグクイーン・ローラは多くの人の心に残っている。そして2022年10月には、親友の城田優さんがローラ役を演じることになった。
ミュージカルを愛するライターのは長谷川あやさんに三浦さんの代表作である『キンキーブーツ』という作品、そして、三浦さんがいかに同作を愛したかを振り返っていただいた記事を、再編集の上お届けする。

三浦春馬さんの親友がキンキーを引き継ぐ

2020年7月18日。2年前の雨の夏の日、三浦春馬さんが30歳という若さで急逝した。あまりに突然の出来事だった。もうあの笑顔はこの世に存在しないという事実は、3回忌を迎える今も、彼のファン、いやファンでなくても、なかなか受け入れることができずにいる。素晴らしい俳優だった。新たな役を得るたびに、違った表情を見せてくれる三浦さんの作品をいつも楽しみにしていた。

なかでも、三浦さんが特に強い思い入れを持っていたのが、ミュージカル『キンキーブーツ』(2016年、2019年)のドラァグクイーンのローラ役だ。ブロードウェイで同作を観た三浦さんは、ローラ役を切望。オーディションで勝ち取り、演じた同役は三浦さんを当たり役のひとつだ。再々演も決まっていた。円盤化を望む声も多い。

その『キンキーブーツ』が、2022年10月、三浦さんの親友の城田優さんがローラ役を引き継ぐかたちで上演される。三浦さんが愛し抜いたローラ役を引き受けるということは、勇気のいる決断だったと思う。

「自分が変われば世界が変わる」「あるがままの他人を受け入れる」。同作の持つメッセージは、全身全霊でローラ役を演じた、三浦さんの生きざまとも重なり、三浦さんが同作への出演を熱望した理由がほんの少し理解できるような気がする。

出典/youtube BWミュージカル「キンキーブーツ」スタッフたちが制作した三浦さんのトリビュートムービー。「キンキーブーツ」にとって三浦さんがいかに大切な存在だったのかもわかる Kinky Boots Japan
 

2013年にトニー賞を総なめ

『キンキーブーツ』がブロードウェイで初日の幕を開けたのは、2013年4月4日。日本時間では、4月5日にあたる。そして、その日は日本版の同作で、ローラ役を演じた三浦春馬さんの誕生日でもある。

ミュージカル『キンキーブーツ』は、イギリスの老舗紳士靴メーカーがドラァグクイーン用のブーツを製作して経営を立ち直らせたという実話をもとに製作された同名映画(2005年)を、ハーヴェイ・ファイアスタインさんの脚本と、シンディ・ローパーさんの楽曲でミュージカル化した作品だ。

物語の舞台は、イギリスの田舎町ノーサンプトン。100年続く老舗の靴工場の4代目にあたるチャーリーは、父親の死をきっかけに不本意ながら工場を継ぐことに。そこで初めて、工場の経営不振を知る。悪戦苦闘するなか、チャーリーは、ひょんなことから、ドラァグクイーンのローラとその仲間たちに出会う。チャーリーはこの出会いをきっかけに、専門のセクシーなブーツ“キンキーブーツ”を作り、工場を再建しようと決意。ローラを靴工場の専属デザイナーとして迎え、ミラノの見本市に出展すべく、キンキーブーツの製作を始めるが、保守的な田舎の靴工場の従業員たちは、型破りなローラのことが理解できない……。

同作は2013年、アメリカの演劇界で最も権威ある賞とされるトニー賞(演劇のアカデミー賞に相当する)で、作品賞、主演男優賞(ビリー・ポーター)、オリジナル楽曲賞(シンディ・ローパー)、振付賞(ジェリー・ミッチェル)、編曲賞、衣装デザイン賞の6部門を受賞し、大ヒットを博した。

2013年5月、トニー賞ノミネートされて喜ぶローラ姿のビリー・ミッチェル(写真右)とクリスティ・ブロンクリー。クリスティは2011年に『CICAGO』でロキシー・ハートを演じた Photo by Getty Images