母、80歳、認知症。
姉、47歳、ダウン症。
父、81歳、酔っ払い。
ついでに私は元SMの一発屋の女芸人。46歳。独身、行き遅れ。
全員ポンコツである。

こんな書き出しでにしおかすみこさんの連載が始まったのは、2021年9月のこと。2020年のコロナ禍、久しぶりに実家に帰ると家が荒れており、変わってしまった母親の姿があった。そこから実家での同居を決め、認知症の母、ダウン症の姉、そして酔っぱらいの父親との同居について赤裸々に綴っている。

「ひとりで無理をしないで」「地域包括センターに連絡したほうがいいですよ!」「笑ってしまったけど壮絶…」と多くの声が集まっている連載の11回目は、ダウン症の姉の健康診断の時の話をお伝えする。

にしおかすみこさん連載「ポンコツ一家」第1回の記事はこちら
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早朝にゲリラが

2021年7月某日朝5時。 
「ついにお手上げだよ、もう無理だ!」と汗だくの母が私の部屋に入って来る。「はぁぁぁ」と壁を背もたれにし、ズリズリっと力なく座り込み天井を見上げ、暫し無言。
そして、ちらり、またちらりと布団から起き上がらない私を盗み見ては、ひとつ大袈裟にため息をつく。

……なんだろう。この朝っぱらからゲリラで始まるババアの三文芝居……とはいえ母に演じている気はない。真剣だ。私は暗転したがる瞼を辛うじて開けている。

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母が床と膝に手をつきながら、よっこいせと立ちあがる。ゆっくりちょこまかと近づき私の枕元でピタリと止まる。ロックオンされた。
「今日お姉ちゃん、病院の健康診断で、朝1番の尿がいるんだけど、説明書何回読んでも取り方がよくわからないんだよ。最近のは画期的で? 尿が手にかからなくて清潔だとか? もう容器まで今どきにされたら私ら年寄りはどうしたらいいんだか。ちょっと見てくれない?」と説明書と検尿キットを差し出してくる。

尿より母に手がかかる。
起き上がり、おみくじのようなそれを開く。
字が小さい。「老眼でぼやけるなあ」と手順のイラストを頼りにキャップの付いたスティックタイプの穴の開いた容器をいじってみる。

「そうなのよ! だからママ最初っから読んでない。え? あんたもう老眼? 容器貸してみ、全く世話がやけるねえ」と。どうしてだか立場が逆転する。

説明書をろくに見ないのは血筋だろうか。
「とりあえず中身が入ればいいでしょ。私、やろうか? 多分出来るよ」と言ってみる。

「出来ないさ。お姉ちゃんがあんた相手じゃ、絶対出すものも出さない。もう決めた! もしダメだったら病院行かない。一生どこにも行かない! ああそうさ、極端さ! イライラしてるさ! なんでかわかるか?! ママはね! 朝からずーっと! 自分のおしっこを! 我慢してるんだよ! もういいかな? もれるぅぅぅぅ」と小股で去って行く。

……愛おしいものを見た気がした。