2022年の夏休みは、コロナ感染に注意しながらも旅行に出る人が多いという。しかし2020年、2021年の夏休みはどこにも出かけることができず、家で悶々としている人も多かったことだろう。

認知症の母、ダウン症の姉、酔っぱらいの父と同居をしているにしおかすみこさんは、母親から健康診断で良好と診断された姉を喜ばせることを相談され、旅行に行くのは怖いからと庭で花火をすることに。前編ではその健康診断のときの尿検査での騒動をお伝えした。後編では花火のときの「バトル」についてお伝えする。

写真提供/にしおかすみこ
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姉が喜ぶ顔を思い浮かべながら…

夕方。
スーパーで姉が喜ぶ顔を思い浮かべながら、手持ち花火セットと、母の好きな線香花火も多めに買い込んだ。

戻ると母と姉が「風呂に入れ!」「入らない!」で揉めていた。見慣れた光景。二階の幅の狭い階段先でやっている。
「ゲンコツ入れるよ!」と母が自分の拳にハァーっと息を吹きかけ、指を広げ手のひらで頭をはたいた。姉が母の膝を蹴った。どちらもたいした力ではなかったが、母がよろけ尻もちをついた。手をついたすぐそばに据え置きの懐中電灯があるのを、姉が見やった。一瞬のことだった。いつもおっとりな姉が、体勢をサッと低くし懐中電灯をさらい握りしめ、母の手の甲と、頭を続けざまに殴った。鈍い音がした。覆いかぶさる姉に母の体半分が後ろに引けた。そこに床はない、危ない、落ちる!私は母を後ろから支え押し戻し、姉から懐中電灯をとりあげ、母から引きはがしどつき倒した。

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手加減はした。気をつけた。殴ってない。どんなに自分に言い訳しても、弱き者を、私はどついて床に転がした。「ママが死んだらどうするんだ! 今度やったら許さないよ! ママを蹴ったのは初めてじゃないでしょ! パパにはしないでしょ! ママだから、勝てると思ったんでしょ! すみちゃんはママみたいに優しくないよ! 怖いんだよ!」と、言っても仕方のないことをまくし立て威圧した。

「やめなさい!指1本でも手出してごらん! 許さないよ!」と母が立ちはだかり、鬼の形相で私ににじり寄った。
……え……いったい誰と誰のケンカなのですか……迷子になった。

「やめろぉぉぉーーーぉぉぉおおうあおぉぉ」と、姉が床にうずくまり吠えた。獣のような、地の底から震えるような、人間が発した声には聞こえなかった。悲しかった。母は手を腫らし、姉に怪我はなかった。
私は何しに実家に戻ったのだろう。