安倍晋三vs.習近平「暗闘の10年史」第2回…アジアの覇権をかけた水面化での応酬

「両雄」の闘いの歴史を振り返る
「追悼 安倍晋三元首相 第2回」――先週お届けした安倍元首相(享年67)と習近平主席の「暗闘10年史」第1回は、大きな反響を呼んだ。安倍首相が「最大のライバル」と意識していた習近平主席との「水面下の暗闘」が、初めて明らかにされたからだ。

第1回は、互いに日中のトップに立ってから、習近平主席が尖閣諸島海域に防空識別圏を設定し、安倍首相が靖国神社を参拝するまでを見てきた。第2回は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の取り込みを巡る激闘から始まる――。

プーチン大統領へのラブコール

林芳正外相は先週15日の会見で、「260の国や地域、機関から1700件以上弔意メッセージが寄せられている」と明らかにしたが、その中にはプーチン大統領も含まれる。今年2月にウクライナ侵攻を開始したプーチン大統領は、いまや日本を含む西側諸国の「最大の敵」と化しているが、8年前は日中双方がラブコールを送る相手だった。

2014年2月7日、ロシアでソチ冬季オリンピックが開幕した。バラク・オバマ米大統領やアンゲラ・メルケル独首相ら多くの欧米首脳が、ウクライナ問題を巡って「外交ボイコット」に出る中、二人のVIPがものともせず、東アジアからソチへ向かった。プーチン大統領との北方領土返還交渉に意欲を見せる安倍首相と、この時までに1年弱で5回ものプーチン大統領との首脳会談を重ねてきた習近平主席である。

Gettyimages

今度は極寒のソチが、両雄が火花を散らす場所となった。この時、習主席は、「どの首脳よりも先にプーチン大統領と首脳会談を開く」ことにこだわった。「どの首脳よりも」というのは、「安倍首相よりも先に」という意味である。

中国側は水面下で、「日本は開会式の2月7日を『北方領土の日』に定めており、そんな国と首脳会談を行うべきではない」と、ロシアに進言した。

 

だが、そもそもホスト役のプーチン大統領は、開会式前日と当日は分刻みのスケジュールで、とても海外の賓客を相手にしている余裕などなかった。それでも中国は必死に食い下がり、開会式前日の午後に30分だけ、中ロ首脳会談が組まれた。

「日本はこのところ右傾化、ファシズム化が甚だしい。来年の反ファシズム戦争勝利70周年と、中国人民の抗日戦争勝利70周年に向けて、中ロが率先して動いていこうではないか」

習主席はプーチン大統領に、こう呼びかけた。プーチン大統領も「日本軍国主義がアジアで犯したファシズム行為を、ロシアは決して忘れない」と呼応した。

習主席が「今年も年に5回の首脳会談を行いたい」と提案すると、プーチン大統領は「もちろんだ」と答えた。そして、中ロで計40兆円規模にも上る過去最大の天然ガス供給プロジェクトの準備を進めることで合意したのだった。

一方の安倍首相は、開会式翌日のランチを、プーチン大統領と共にした。日ロ両首脳は最高級のロシア料理に舌鼓を打ち、ウォッカで5回も乾杯しながら、互いのホンネをぶつけ合った。

安倍:「1956年の日ソ共同宣言を土台に、そこから積み上げる形で北方領土問題を解決していこうではないか」

プーチン:「その意見に賛成だ」

安倍:「中国の軍事的台頭は、東アジア全体にとって大きな脅威だ」

プーチン:「その通りだ。中国の脅威に対しては、何千kmもの国境を接するロシアとしても、手を焼いている」

Gettyimages

安倍首相はランチ会談が終わると、ほろ酔い気分で側近につぶやいた。

「プーチンは話の分かる男だなあ。オバマよりよほど話しやすい。中国の恐さもよく分かっているよ」

結局、日中両首脳を手玉に取ったプーチン大統領は、ソチオリンピックが終わるや、ウクライナのクリミア半島を占領してしまった。欧米は経済制裁を科したが、プーチン大統領は5月に上海を訪問し、習主席と超大型の天然ガス供給プロジェクトの覚書にサインしたのだった。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら

関連記事