山上容疑者の凶行を「民主主義の危機」「宗教問題」で終わらせることへの「強烈な違和感」

6畳一間の部屋で、男は誰にも気づかれることなく凶器を作った。それが火を噴く瞬間まで、殺意に気付く者は誰一人いなかった。社会の盲点から飛んできた銃弾――その出どころは思ったよりも深く暗い。

偶然と必然が重なって

「明日は奈良、それから京都に行く。事前調査の結果も厳しいからね」

7月7日午後。岡山、神戸での遊説を終えた安倍晋三元総理は、自民党幹部らにこう伝えた。翌8日は長野で応援演説する予定だったが、その2日前、長野選挙区の候補者のスキャンダルが報じられた。関西選出の複数の側近代議士が「いま長野に入るのは得策ではない」と進言したことも、予定変更に影響した。

同じ頃、自作の銃を携えた山上徹也(41歳)は奈良市のワンルームマンションへの帰途についていた。岡山での街頭演説で安倍氏を狙おうとしたが、警備に阻まれチャンスがなかった。その途上、スマートフォンを開くと「明日、安倍元総理が来県する」という地元の自民党関係者のSNS投稿が目に入った。

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バタフライ・エフェクトという言葉がある。一匹の蝶が羽ばたいたそよ風が、やがて乱流を生み出し、遠く離れた地で巨大な嵐を巻き起こす。

安倍氏の暗殺事件は、まさにそれを思わせた。社会にほとんど忘れられるようにして、地方都市で孤独にひっそり生きてきた一人の男。その男が手作りした銃弾が、戦後最長の政権を築いた最有力政治家の心臓を貫き、日本社会の風景を永遠に変えてしまった。

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