2022.07.20
# エンタメ

タコ部屋、風呂なし、飢餓、強盗…極貧状態の男がショパン・コンクールで世界2位のピアニストになるまで《集中連載・反田恭平という人生(3)》

反田恭平という人生(3)

ショパン国際ピアノコンクールで昨年世界2位の快挙に輝いた反田恭平の初の著書『終止符のない人生』がいよいよ発売される。そこで初めて明かされた反田誕生の秘話を紹介する集中連載の3回目をお届けしよう。

連載第1回はこちらから/第2回はこちらから

ひまわりの種を食べて飢えをしのぐ

「ロシアのチャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院からスカウトされ、モスクワへ留学した」という経歴を見て、「反田恭平=将来の成功が約束されたサラブレッド」と錯覚する人もいるかもしれない。反田の新刊には、ロシア語がまったくわからない状態でモスクワへ飛びこみ、貧乏学生生活を耐え忍んだ苦労話が赤裸々に綴られている。

〈国立モスクワ音楽院の学生寮は、1000人は収容できそうなマンモス寮だった。1階は男女共用部屋が並び、多くのカップルが一緒に住んでいた。2〜3階は女性専用フロア、4〜5階は男性専用フロアだ。5階建ての寮の廊下は100メートル走2本分くらいの長さがある。部屋には2段ベッドとシングルベッドが置いてあり、2人ないし3人が同部屋で暮らす。両手を伸ばすと両手とも壁にぶつかるような狭い居住空間だった。〉『終止符のない人生』47ページ)

反田恭平氏 『終止符のない人生』より

世界中から集まってきたスーパーエリートたちに、それぞれ広い個室とピアノが与えられているわけでもない。狭いタコ部屋に押しこまれ、鬼教官から毎日シバかれる厳しい学生生活がスタートした。

〈入寮するときには荷物なんてほとんどもっていかなかった。現金は少しだけもっていたが、クレジットカードなんてない。ロシア語も何一つ知らないし、「腹減ったなあ。誰かメシ作ってくれないかなあ」と途方に暮れた。

 

『地球の歩き方』を読むと「ロシアの水道水は飲まないほうがいい」と書いてある。硬水のため、水道水をそのまま飲むと石灰が体内に蓄積され、尿路結石症になってしまうのだ。ペットボトルの水を買うこともできず、水道水を口にするわけにもいかず、モスクワに着いてから2日間は水も飲めなかった。〉『終止符のない人生』48ページ)

〈「ごめん。今僕の部屋にはこれしかないんだ」

【※先輩が】そう言ってペットボトルの水とひまわりの種をくれた。ロシア人は、ひまわりの種をよく食べる。普通はフライパンで種をあぶり、皮が少しめくれた状態で食べるのだが、そんなことは知らないから生のまま種を食べた。飢餓状態で口にしたひまわりの種は、おつまみやナッツみたいでとてもおいしかった。水とひまわりの種から、僕のロシア生活が始まったのだ。〉
『終止符のない人生』49ページ)

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