2022.07.26

又吉直樹とヨシタケシンスケが膨らませた「自由な本のかたち」

『その本は』刊行記念インタビュー

目の悪くなった本好きの王様から依頼を受け、めずらしい本について知る人を探して本についての話を聞いてくるという依頼を受けたふたりの男。一年後、ふたりは世界中を巡った旅から戻り、一夜ずつ交替で王に「その本は」と語りかける。

こんなコンセプトで、又吉直樹とヨシタケシンスケがそれぞれ考えた「本についての物語」が語られていく『その本は』(ポプラ社)。

「めずらしい本」といっても中身の話だけでなく、物体としての側面や来歴、持ち主と本との関係など、さまざまな切り口からヘンな本の話が飛び出す。生きもののような本、宇宙から来た本、人間と入れ替わった本……。読んでいるうちに「本ってこういうもの」という思い込みが、笑いや感嘆、驚きとともに崩されていく。いま世の中にあるもの以外の本の可能性を想像させてくれる。それが気持ちいい。本好きはもちろん、そうでない人にも開かれている。

お互いに「ひとりで書いた本ではできなかったことができた」という『その本は』とはどんな本なのか? ふたりに訊いた。(前後編の前編)

 

本という存在自体がおもしろく、果てしない

――どんな経緯でこういうコンセプトの本になったのでしょうか。

ヨシタケ 小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙で私の本が受賞し、又吉さんはアンバサダーを務めていらして、授賞式で初めて会ったんですね。そのとき本の話で盛り上がったのをポプラ社の方が見ていて「ふたりで本にまつわる本を作りませんか?」と提案を受けたのがそもそものスタートです。

ただ“こどもの本”総選挙がきっかけではありますが、子どもだけに向けて作ったわけではなく、本が好きな人もそうでない人も読みたくなる「本の本」を作れればなと。

又吉 そうですね。

ヨシタケ 打ち合わせをしていくなかで「又吉さんがお話を考えて僕が絵を描くという方法もあるけど、本というものの幅の広さができるだけ入っていた方がおもしろい。『いろいろな本の話を、いろいろなやり方で書く』ほうが本の主旨に合っている」ということで、僕は絵と物語で描き、一方で又吉さんは文字だけで「その本は、」から始まる物語をお互い考えていくことに決めました。

そこからは作ったものを送っては僕らと編集さんで読み、編集さんから「じゃあ次はおもしろいだけじゃなくてこわい本の話を作ってください」「じーんとくる話がほしいですね」といったかたちで毎回お題をいただいて、つねに全体のバランスを見ながらバリエーションを広げていきました。

――又吉さんパートでは大喜利の回答のようなほとんど一言のものもあれば、短編小説くらいの長さのものもあり、長さのバリエーションだけでもおもしろさを感じました。

又吉 それぞれ作ってきたものがかなり出揃ってきたあとで編集の方から宿題というか、僕には「長めの、小説のようなものを書いてください」、ヨシタケさんには「本の冒頭と結末の部分を作って、本全体の枠を決めてください」というお題をいただいて、分担したんです。

ヨシタケ そうですね。最後のほうに「本を貫く世界観があったほうが読みやすい」という話になって僕がそれを担当して、この本の「枠」が決まりました。

――長さ、読み味、本のどんな部分にフォーカスした物語なのかがさまざまでおもしろいのですが、一方でどんなジャンルの本だと言えばいいのか、書店さんも「どこに置けば?」と少し戸惑いそうな気もしています。おふたりはどんな本だと思っていますか。

ヨシタケ ……僕らも、すごく困っています(笑)。

又吉 そうなんですよ。お笑いに分類されるような話もあるし、絵本的なアプローチもあるし、文芸に近いものもあるし……どう言ったらいいですかね?

ヨシタケ でもそれを「この本の良さ」と捉えれば、本にふだん興味のない人にも「本って読むだけじゃないおもしろさがあるよね」「本という存在自体がおもしろい」「どんな風にジャンル分けしていいのかわからない本もあっていい」というメッセージにもなっているかもしれません。

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