アジアとの関係を前に進めるために
この談話に、アジアの人たちは、結構、じんときたようだ。実はベトナムとの首脳会談のあと、安倍氏の乗っているエレベータに、後から乗ってきたベトナム人の女性外交官が、突然、「70年談話ありがとうございました」と言いだしたことがあった。アジア人はみんなそう思っているのではないか。
アジア人は、先の大戦で、自由主義、民主主義が勝利したなどとは思っていない。自分達の自由と民主主義は、戦前、植民地支配により欧米から否定されていた。戦後になって、戦後になって、それを自分たちの手で主権と共に取り返したと思っている。
この点、今の日本人は欧米とアジアの両方の立場でものが言える。植民地支配を受けた側には、「白人世界も変わった。人種差別はなくなり、多様性が新たな価値となった。自由も平等も、別に白人キリスト教文明の価値ではなく、アジアにも古くからある普遍的な価値観だ。あなたたちは自由と尊厳を取り戻した。これから一緒にこれ自由主義秩序を支えて行きましょう」と。
また、植民地帝国だった欧米諸国には「上から目線でものを言っては駄目だ。アジアの国々は、私たち先進民主主義国家によって植民地支配された。独立後、彼らは長い独裁時代を経て、ようやく民主主義に舵をきってきている。その熱意は本物だ。ジグザグな歩みではあるが、彼らをちゃんと仲間にしないといけない」と。
それが日本人である安倍氏の自由主義社会のリーダーとしての最大のメッセージだった。これが安倍氏の外交力の源泉の一つとなった。