こんにちは、新生児科医の今西洋介です。
私は、小児科の中でも赤ちゃんを専門とする「新生児科」の医師です。

悲しいことですが近年、児童虐待は過去最大に増加し、捨てられる赤ちゃんの報道が後を絶ちません。そこで出てくるのが「最近の母親は一体どうしてしまったのだ?」という声です。こういった母親が関与する事件が続くと、社会は怒りの声をあげ、有識者は母親達の変化に何があったのか原因を追求します。

「母親は我が子を守る存在のはずなのに、捨てるとは何事か」
「子どもに何かあったら、母親の責任だ」

当然犯した罪は償って欲しいですが、これらはすべて母親の責任でしょうか?
妊娠させた相手の男性の責任はないのでしょうか? 思いがけない妊娠に苦しむ女性に手を差し伸べなかった社会の責任はどうでしょうか?

思いがけない妊娠で起こる悲劇。責められるのはいつも女性ばかりだ。photo/iStock

残念ながら日本では今も「育児や家族は女性」と強いている部分があります。男性も長時間労働を強いられてもいますが、女性も仕事を持ちながら、育児をしている人はたくさんいます。なぜ社会は女性にばかり育児や子育ての責任を押しつけてしまうのでしょうか。それは社会の根底に「母性愛神話」が根付いているからと言って過言ではありません。

 

子供が影響を受ける身近な存在、それは親

まず誤解がないように言うと母親が子供に与える影響は大きく、かけがえのないものです(#1-4)。ですが、それはもちろん父親もそうです。

小児科医にとって、子どもの健やかな成長ほどうれしいことはありません。子どもは成長していく過程で、多くの人から様々な影響を受けます。影響は良いものだけでなく、当然ながら悪い影響も受けます。子どもの成長と発達において、「環境」は大事な要素のひとつです。

2019年に大ヒットした映画『ジョーカー』でもその部分が描かれていました。主人公アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)は心優しい大道芸人でしたが、周囲環境の悪化で犯罪者になってしまいました。

映画「ジョーカー」US版予告(2019年10月4日公開)/YouTube(ワーナーブラザース公式チャンネル)

子どもが影響を受ける対象は学校の先生や友人はもちろんですが、家族、中でも母親や父親から受ける影響は大きいのです。

母性とはWHOの母性保健委員会によると「母性とは、現に子どもを産み育てているものの他に、将来子どもを産み育てるべき存在、及び過去においてその役目を果たしたものをいう」として定義しています(#1,2)。母性とは、社会学的にも生物学的にも母と子の相互関係を育む上でとても大切なもので必要なものです。これを否定する人はなかなかいないでしょう。

しかし、これが一転、周りから神格化され母性愛「神話」として押し付けられると、世の母親達は精神的につらくなってしまいます(#3)。母親は家事をするべきだ、育児をするべきだ等押し付けるのは社会として望ましくないでしょう。父親も家事や育児をすべきですし、実際社会も育児休業取得を促進し、昨今社会全体がそれらをサポートしているのは良いことです。