安倍元首相「暗殺」と参院選の結果でわかったこと《田中康夫・浅田彰対談》

「憂国呆談」第2回(前)
田中康夫・浅田彰という二人の論客が深く、そして軽やかに日本を、世界を語り合う連載「憂国呆談」の第2回は、安倍元首相の銃撃事件を論じるところから始まります。その2日後の参院選の結果も注意深く見てみると、意外なことがわかって……。

「統一教会」の名前はなぜ報じられなかった

浅田 7月8日午前11時半頃、奈良の大和西大寺(やまとさいだいじ)駅前で参議院選挙の応援演説中の安倍晋三元首相が銃撃されて亡くなった。

ぼくは彼の右翼的政策や強権的政治手法に全面的に批判的だけれど、言うまでもなく批判は言論によってなされるべきで、暴力による暗殺なんて絶対に許されない。政治家が暗殺されるなんて1930年代に戻ったみたいだし、銃撃なんてアメリカの事件みたいで、現代の日本でこんなことが起こったのには愕然とするばかり。

田中 古くはハルビン駅で伊藤博文、東京駅で原敬、五・一五事件で犬養毅、二・二六事件で高橋是清と斎藤実が暗殺され、濱口雄幸も銃撃が原因で翌年に亡くなっているけど、戦後に首相経験者が「暗殺」されたのは初めてだ。

フランスの『読売新聞』的立ち位置の『ル・フィガロ』紙は事件直後から通称「統一教会」で知られる宗教法人「世界平和統一家庭連合」(旧称「世界基督教統一神霊協会」)の固有名詞を出して報じていた

日本でも「現代ビジネス」が事件翌日の9日、「安倍元首相を撃った山上徹也が供述した、宗教団体「統一教会」の名前」と題してアップ。「現代ビジネス」読者には周知の事実だけど、投開票日の10日にも「元首相襲撃・山上徹也と「統一教会」の関係を同級生たちが証言!」 の「独自続報」を出している。同日に光文社の「Smart FLASH」も「安倍元首相銃撃の山上容疑者 優等生バスケ少年を変えた“統一教会で家庭崩壊“…事件前には近隣トラブルで絶叫【原点写真入手】」をアップした。

(c) 現代ビジネス(c) 現代ビジネス

ところが日本記者クラブ加盟の新聞社、通信社、放送局は投開票日から一夜明けた11日(月)になっても、固有名詞を出さずに「ある宗教団体」で「統一」。その腰の引け方をフランスの経済紙「レゼコー」が皮肉っていた。

浅田 そう、大手メディアが名前を出し始めたのは11日の夕方からじゃない? 談合による「自主規制」でもあったのか?

田中 11日午後、家庭連合=統一教会会長の田中富広が、山上徹也容疑者の母親は熱心な信者だったと認めた上で、2002年に奈良地裁から宣告を受けた「彼女の(巨額の献金による)破産が(今回の襲撃の)動機なら重く受け止める」と京王プラザホテルで開いた会見で述べた。

 

その会見開催を10日夜半に、「統一教会 安倍元首相の銃撃事件で11日に会見『山上容疑者の母親が信者なのは間違いない』」と前打ちで報じたのもご存知「東京スポーツ」だ。

でも、出席が許されたのは聞き分けの良い「上級メディア」のNHKと在京TV局、全国紙5紙に限定で、東スポは入れて貰えなかった。

思い起こせば今から30年前の1992年、著名な芸能人が参加した統一教会の「合同結婚式」をニュースでもワイドショーでもTV局は競い合って伝えたものだよ。朝日新聞社が編集発行していた『朝日ジャーナル』は「霊感商法」のネーミングで、高額な壺を売り付けられた信者が破滅していく悲劇を特集し続けた。

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