20代半ばから30代のころ、契約スタッフとして雑誌「FRaU」のファッション班に在籍していた笹本絵里さん。結婚、出産ののち、夫の地方への転勤を機に離職した。その期間に着物が好きな友人に連れられて京都のリサイクル店に行き、ショッキングピンクの地色に色鮮やかなターコイズブルーのコントラストが際立ったアンティーク着物に出会う。「着物って、こんなにファッショナブルで楽しいんだ!」一目ぼれをしたのが、着物に魅了されるきっかけとなった。

娘の3歳と7歳の七五三にその着物を着せ、「高額で大変なもの」という印象だった着物が、実は長く使えてファッションとしても最高に楽しいもの」と確信、着物への愛は約10年になる。2017年に東京に戻り、フリーライターとして仕事を再開してからは、ライター業にこだわらず、着物に関する分野で活動をしている。

7歳の七五三にて。着物に魅了されるきっかけとなったのがこの色鮮やかな着物だった 写真提供/笹本絵里

着物は究極のSDGsといえる。世代を超えて引継ぎ、仕立て直しをすればいつまでも着続けることができる。そしてなにより、その背景には「つくる人」の想いが込められている。まさに「着るアート」なのだ。

なかでも浴衣はより夏の風物詩。花火大会や縁日、お祭りで身につける人も少なくないのではないだろうか。どうせなら「涼しげな柄」を身につけたいけれど、そこにはちょっとした知識が大切。たとえばドラマ化もされた『やんごとなき一族』では花見の回に桜が満開の着物を着て「この恥知らずが!」と怒鳴られるシーンもあった。まるで短歌の季語のように、NGな柄があるなんて恐ろしい……。そこで浴衣の知識を身につける短期集中連載。第1回は「柄から涼を生む」をテーマに、この夏に楽しみたい「涼を感じさせる柄」についてお伝えいただく。

浴衣を身につける笹本さん。小物のコーディネートも楽しくなります
 

柄に涼を見出して

筆者は着付けの資格があるわけでも、研究家でもありません。長いキャリアを積み重ねた書き手の方が多い着物の世界では、足元にも及ばないひよっこです。着物愛好家+αの身と自覚して、日々学びながらこの道を歩んでいます。ただ、今の立場だからこそ感じる、着物の楽しさ、面白さを等身大で伝えていきたいと思います。

今回は「浴衣」に着目し、「涼を生む」5つのキーワードをピックアップしました。
四季の移ろいを装いに宿す和装の世界。浴衣も同様に、さまざまな柄で夏を楽しむことができます。そして夏の暑さを少しでも和らげようと、先人たちはたくさんのアイデアを遺してくれました。五感を使ったその知恵に、電気だけに頼らない地球を守るヒントが潜んでいる気がしてなりません。和装のみならず、日本の文化には「使い切る」「直す」「受け継ぐ」など、SDGsを達成するためのヒントが溢れているのです。
第一回目は、涼を生む「柄」についてご紹介します。

涼を感じるモチーフ

まずは「水」をモチーフにした柄。優雅に川を蛇行する水の情景を移した写実的な柄もあれば、能楽の観世家が使用していたことで名がついた観世水や古今集に由来した竜田川文様、荒々しい波が躍動する波頭模様や、波をデフォルメした青海波など、水の動きを表現した柄はたくさんあります。中でも流水だけの柄や、涼やかなモチーフと組み合わせた意匠は、浴衣や夏着物の柄として親しまれてきました。また、四季の草花など他モチーフと描かれることも多く、そうなると通年着ることができます。そういえば先日観に行った歌舞伎「紅葉狩り」で更科姫が着ていたのは、流水に紅葉が描かれた竜田川文様に、扇を散らした絢爛豪華な深紅の振袖でした。

「流水に団扇」は浴衣で有名な老舗の定番柄

「コーマ地染 流水に団扇 納戸地」40,700円(反物価格)竺仙

左右にたゆたう美しい川の流れに団扇が描かれ、より涼感を強調した「流水に団扇」は、浴衣や江戸小紋でお馴染みの1842年創業、老舗呉服店「竺仙」の定番柄です。ブルーに少しだけ緑を感じる「納戸色」は濃紺よりも柔らかい雰囲気を持っています。それから、夏の風物詩をモチーフにした柄は古典的な意匠だけでなく、ファッション性の高いデザインも多く出ています。オリジナリティにあふれ、まるで一枚の絵画を見ているような面白さが。