2022.07.28

「特攻隊員は全員坊主頭」のウソ…時代考証から見る「旧海軍の制度や慣習」

「言葉遣い」「敬礼」「服装」の誤解

「時代考証」という仕事

ドラマや映画において「時代考証」は、あくまで「大きなウソ」をつくために「小さなウソ」を潰してゆく作業で、不自然に見えないための裏方である。しかも考証の意見をどれだけ取り入れるかは制作側の演出の都合や予算、スタッフ間の意思疎通によっても違ってくるから、面倒なわりには報われない役目と言えるだろう。筆者の場合はあくまで余技で、制作側の考え方と折り合わないときは断ってしまうからいいが、これが本職になるとかなりキツい仕事だと思う。

テレビ局で唯一、考証専門のスタッフがいるのがNHKだが、考証担当シニアディレクター大森洋平氏が今後、年齢的な理由でいなくなればそれもなくなり、ますますツッコミどころ満載のドラマが生まれてくるだろう。

前回の記事(「貧しく無学な女性と海軍士官の恋」がありえないワケ…「時代考証」の観点でみるドラマや映画)にも書いたが、私が考証を引き受ける際に、まずやるのが登場人物の履歴書を実例に基づいてつくることである。特に舞台が数年におよぶドラマの場合、軍人は登場するたびに階級が変わり、服装やマークが違ってくるからだ。逆に言えば、最低限ここを押さえて衣装を用意しておけば、そうそう変なことにはならない。

私が戦時考証を担当した2013年公開のある映画では、主人公の年齢が脚本の初稿通りだとどうしても履歴が1年合わないので、映画では生まれ年を1年早くしてもらった。また、自宅が横須賀で空襲で焼け野原になったという設定だったが、横須賀はほとんど空襲被害を受けていないので横浜に変えた。原爆が落ちたあとの終戦間際に、九州の鹿屋基地から零戦で特攻機として出撃する設定だったのも、沖縄戦が終わった昭和20年6月23日以降、鹿屋基地から零戦の特攻機は1機も出ていないので、気の毒だが6月に戦死してもらうことにした。

2004年に協力した別のある映画では、元特攻隊員がまだ大勢存命だったこともあって、沖縄への特攻で戦死する主人公の零戦パイロットと、設定上の経歴が一致する元特攻隊員(当時、大手製薬会社エーザイの会長だった内藤祐次氏――元海軍中尉――)に、スタジオで直接指導してもらった。浜辺に打ち上げられたパイロットの遺体を地元の人が葬るシーンがあり、飛行服を脱がすと少尉の襟章がついた紺の第一種軍装が出てくるが、これは内藤氏の、

「われわれの仲間は皆、出撃するときは『死に装束』として第一種軍装で正装した上に飛行服を着た」

飛行服は軍服の上に着るのが基本。襟元から軍服が見える例。左から第二種軍装(白)、第三種軍装(草色)、第一種軍装(紺色)
 

との回想に基づいたものである。もっとも、飛行服は軍服の上に着るのが基本だから、これはそれほど特別なことではなかった。

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