いっそ身体を捨ててしまいたい…有名実業家が語ったリハビリの現場

脳卒中とは、どのような病気か

脳卒中で倒れ、歩くことも、言葉を発することもできなくなってしまった出口治明氏。それでもなお、悲観的になることなく「立命館アジア太平洋大学(APU)」の学長に復職するためチャレンジを続けようと考えたのはなぜか?
多忙を極めていた出口さんが発症した脳卒中とは、どのような病気か。リハビリの過酷さにもめげず、制度上の制限に言及するその姿は、悲観という言葉とは無縁だった。

高血圧、糖尿病、喫煙…リスク因子は多い

僕が患った脳出血を含む、脳の血管に障害が起きて生じる病気は一般に脳卒中と総称されています。

脳卒中は脳の血管が詰まるタイプと、脳の血管が破れるタイプがあります。前者が脳梗塞、後者には脳内の細かい血管が破れて出血する脳出血と、脳の表面の血管にできたコブが破れるくも膜下出血があります。

血管が詰まるにせよ出血するにせよ、脳がダメージを受けるのは共通しています。僕がなったのは脳出血で、脳卒中の19・5%を占めます。なお、脳梗塞は76・1%、くも膜下出血は4・5%です。

脳卒中を発症するリスク因子としては、高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満、喫煙などがあります。

自分に心当たりがあるのは、高血圧です。3年ほど前に高血圧と診断され、降圧薬の服用を継続していました。

もともと僕は医者嫌いで、以前は職場の決まりで受けなければならない健康診断を、年に1回受けるだけでした。ついでに人間ドックを受ける人も多いですが、最小限の検査しか受けていません。

年間322日働く超多忙なスケジュール

健康法の類も何ひとつせず、APUに来てからは忙しいので運動はまったくしていません。お腹が空いたらご飯を食べて、眠たくなったら眠るだけ。そんな生活を70年以上続けながら、脳卒中を起こすまで病院に入院したことは一度もありませんでした。

医師からは「毎日血圧を測るように」と指導されていましたが、つい面倒くささが先に立って測定を1日サボり、2日サボり、1週間サボり、ずっとサボり……、という褒められたものではない状態でした。

付け加えると、多忙だったのは間違いありません。数えてみると、2019年は年間322日働いていました。大学のためになる仕事ならどんどんスケジュールを入れてもらっていたからです。

さらに2020年以降は、新型コロナ対応の仕事が増えました。とくに留学生の再入国問題は大学だけでは何もできないので、留学生を守るには政府、県庁、市役所にそれぞれ相談して助けを求める必要があったのです。政府の審議会の委員を務めていたので、首相官邸で直訴もしました。

僕が脳出血を発症したのは、こうした状況のなかでのことでした。

脳卒中は個人差が大きい病気

一般に、脳卒中に伴う症状としては、片側の手足の麻痺やつっぱり、水や食べ物を飲み込むときに口からこぼれたり、食べ物が肺に入ってしまったりする嚥下[えんげ]障害、言葉を話す・聞く・読む・書くことが難しくなる言語障害、記憶力や注意力の低下といったさまざまな症状が出る高次脳機能障害などがあります。

どのような症状が現れるかは、脳のどの部分がどの程度、ダメージを受けたかによって変わります。脳はそれぞれの部分が異なる働きを受け持っているからです。個人差が大きい病気といえます。

僕の場合は意識障害と右の手足の麻痺、そして話せないことでした。これは脳出血が起こった場所が、左脳だったためです。

大脳は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉といった葉に区分けされ、それぞれの皮質にはいくつかの「野[や]」があります。運動野や言語野といった用語は聞いたことがあるのではないでしょうか。各野にはさまざまな機能があり、それぞれが連携して機能します。

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